1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
◈パスカル・キニャール著 高橋啓訳『音楽への憎しみ』青土社、1997年。
「音楽への憎しみ」とは、まるで音楽への呪詛のような題名です。著者のパスカル・キニャール(Pascal Quignard, 1948-)は、フランスの作家です。彼の作品はどこからが史実でどこまでが妄想なのかよく分からないところがありますが、この本は、彼の音楽に関する思考のコレクションといったところでしょうか。
古今東西の様々な書物を漁りながら、音楽の本源的なものに肉薄していくところに面白さがあります。
「音楽」の字面を見ると、「音を楽しむ」と書いて「音楽」という言葉が出来上がったのではないかと思われがちです。実際、そういう言葉の成り立ちで「音楽」という言葉があるのだと信じて疑わない人もいます。
しかし実際、「音を楽しむ」などという字面だけで捉えられるほど、音楽は簡単ではありません。(そもそも「音を楽しむ」という「音楽」の字義解釈は正しくないのですが、その点の説明は、この本と話が大きくずれるので割愛します。)
我々は、様々な音に囲まれて暮らしていますが、ジョン・ケージみたいな音楽観を徹底化して「我々の身の回りにあふれている音に耳をすませば、それがすなわち音楽になる」などと言わない限り、身の回りにある様々な音を「音楽」だとはいいません。
西洋古典音楽などで使われる音は、人間がコントロールできる音に限られており、「音楽」は、人間がコントロールできる音を、人間が様々な価値観に基づいてコントロールし、組織化した結果です。
かかる音のコントロールは、音の出る道具、種々の楽器、あるいは自らの声によって為されます。
華やかな音が欲しければ、華やかな音の鳴る楽器を使い、清澄な音が欲しければ、清澄な音の鳴る楽器で、自らの求める音を鳴らします。
しかし、楽器の扱いは、一朝一夕に出来るものではなく、様々な鍛錬を重ねなければなりません。人間が音を自在にコントロールする・・・すなわち音を飼い慣らすためには、その音を出す楽器についての熟練の技が必要になります。
音を飼い慣らすための技術―具体的には音の組織化の秩序としての音楽理論と、その理論に裏付けられた楽器などの演奏技術―に長けていれば、その熟練者から放たれる音は、よく手懐けられた音であり、安心して聴くことのできる「音楽」であります。
しかし、かかる技術が未熟であれば、その未熟者から放たれる音は、聴き手をイライラさせたり、悪い意味でびっくりさせたりします。その未熟者が音を扱えば、いつ間違った音や暴力的な音を出すか、我々はビクビクしなければなりません。
聴き手が奏でられる音について非音楽的だと断じる場合は、その奏でられている音が無秩序に感じられたり、自分たちの意にそぐわない秩序で奏でられたりしている場合です。自分たちが想定し望んでいる、あるいは美しいと思っている通りの秩序で音が紡ぎだされていれば、耳を聳て、聴き惚れたり悦に入ったりと、奏でる側に肯定的な反応をしますが、そうでなければ、我々はそれを「非音楽的」とみなし、自分から遠ざけようとします。
音をあわよくば自らの意のままにコントロールし、手懐けようとするその執念、すなわち音を「音楽」たらしめようとする人間の執念は、意のままにならぬ音に対する怖れと憎しみに端を発しているのではないか・・・ということを、この本は考えさせてくれます。
キニャールは、「音楽」にまつわる美辞麗句のヴェールを剥ぎ取り、その本性を暴きだそうとします。神話や人間の生理的側面、はたまた言葉の起源にまで遡り、ナチスの強制収容所の人々の証言や、ソクラテスやアリストテレスらの考察などをちりばめながら、「音を楽しむ」と書いて「音楽」とする考え方をジワジワと追い詰めていきます。
尤も、この本は、これを片手に「音楽なんて、ろくでもない」と、巷の音楽を断罪して追放するための本ではありません。癒しだとか、好みだとかと言った次元を超えて、そもそも音楽とは何であったかという問いに近づいていく本です。我々が趣味の対象としている「音楽」の原料である「音」は、人々の体や精神に食い込む恐ろしい力を秘めたものだということを、この本を通して自覚する必要があります。ある人にとって歓迎される音は、他の人にとっても歓迎される音だとは限りません。
キニャールが集めた「音楽」に寄せる執拗なる憎しみと断罪の言葉を通して、我々は「音楽」を単純に「音を楽しむ」と捉えるのではなく、音のマナーについてじっくり考えることができると思います。
古今東西の様々な書物を漁りながら、音楽の本源的なものに肉薄していくところに面白さがあります。
「音楽」の字面を見ると、「音を楽しむ」と書いて「音楽」という言葉が出来上がったのではないかと思われがちです。実際、そういう言葉の成り立ちで「音楽」という言葉があるのだと信じて疑わない人もいます。
しかし実際、「音を楽しむ」などという字面だけで捉えられるほど、音楽は簡単ではありません。(そもそも「音を楽しむ」という「音楽」の字義解釈は正しくないのですが、その点の説明は、この本と話が大きくずれるので割愛します。)
我々は、様々な音に囲まれて暮らしていますが、ジョン・ケージみたいな音楽観を徹底化して「我々の身の回りにあふれている音に耳をすませば、それがすなわち音楽になる」などと言わない限り、身の回りにある様々な音を「音楽」だとはいいません。
西洋古典音楽などで使われる音は、人間がコントロールできる音に限られており、「音楽」は、人間がコントロールできる音を、人間が様々な価値観に基づいてコントロールし、組織化した結果です。
かかる音のコントロールは、音の出る道具、種々の楽器、あるいは自らの声によって為されます。
華やかな音が欲しければ、華やかな音の鳴る楽器を使い、清澄な音が欲しければ、清澄な音の鳴る楽器で、自らの求める音を鳴らします。
しかし、楽器の扱いは、一朝一夕に出来るものではなく、様々な鍛錬を重ねなければなりません。人間が音を自在にコントロールする・・・すなわち音を飼い慣らすためには、その音を出す楽器についての熟練の技が必要になります。
音を飼い慣らすための技術―具体的には音の組織化の秩序としての音楽理論と、その理論に裏付けられた楽器などの演奏技術―に長けていれば、その熟練者から放たれる音は、よく手懐けられた音であり、安心して聴くことのできる「音楽」であります。
しかし、かかる技術が未熟であれば、その未熟者から放たれる音は、聴き手をイライラさせたり、悪い意味でびっくりさせたりします。その未熟者が音を扱えば、いつ間違った音や暴力的な音を出すか、我々はビクビクしなければなりません。
聴き手が奏でられる音について非音楽的だと断じる場合は、その奏でられている音が無秩序に感じられたり、自分たちの意にそぐわない秩序で奏でられたりしている場合です。自分たちが想定し望んでいる、あるいは美しいと思っている通りの秩序で音が紡ぎだされていれば、耳を聳て、聴き惚れたり悦に入ったりと、奏でる側に肯定的な反応をしますが、そうでなければ、我々はそれを「非音楽的」とみなし、自分から遠ざけようとします。
音をあわよくば自らの意のままにコントロールし、手懐けようとするその執念、すなわち音を「音楽」たらしめようとする人間の執念は、意のままにならぬ音に対する怖れと憎しみに端を発しているのではないか・・・ということを、この本は考えさせてくれます。
キニャールは、「音楽」にまつわる美辞麗句のヴェールを剥ぎ取り、その本性を暴きだそうとします。神話や人間の生理的側面、はたまた言葉の起源にまで遡り、ナチスの強制収容所の人々の証言や、ソクラテスやアリストテレスらの考察などをちりばめながら、「音を楽しむ」と書いて「音楽」とする考え方をジワジワと追い詰めていきます。
尤も、この本は、これを片手に「音楽なんて、ろくでもない」と、巷の音楽を断罪して追放するための本ではありません。癒しだとか、好みだとかと言った次元を超えて、そもそも音楽とは何であったかという問いに近づいていく本です。我々が趣味の対象としている「音楽」の原料である「音」は、人々の体や精神に食い込む恐ろしい力を秘めたものだということを、この本を通して自覚する必要があります。ある人にとって歓迎される音は、他の人にとっても歓迎される音だとは限りません。
キニャールが集めた「音楽」に寄せる執拗なる憎しみと断罪の言葉を通して、我々は「音楽」を単純に「音を楽しむ」と捉えるのではなく、音のマナーについてじっくり考えることができると思います。
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