1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
CD1:
◈Arnold Schoenberg: String Quartet No.1, op.7
Kolisch Quartet
{Rdolf Kolisch (1st Vn), Felix Khuner (2nd Vn)
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
(Rec. 29 December 1936, Los Angeles)
◈Arnold Schoenberg: String Quartet No.2, op.10Kolisch Quartet
{Rdolf Kolisch (1st Vn), Felix Khuner (2nd Vn)
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
Clemence Gifford (S)
(Rec. 31 December 1936, Los Angeles)
◈Arnold Schoenberg: Spoken Comment(Rec. 31 December 1936, Los Angeles)
CD2:
◈Arnold Schoenberg: String Quartet No.3, op.3
Kolisch Quartet
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Felix Khuner (2nd Vn)
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
(Rec. 30 December 1936, Los Angeles)
◈Arnold Schoenberg: Spoken comment(Rec. 8 or 9 January 1937, Los Angeles)
◈Arnold Schoenberg: String Quartet No.4, op.37Kolisch Quartet
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Felix Khuner (2nd Vn)
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
Eugen Lehner (Vla), Benar Heifetz (Vc)}
(Rec. 8 or 9 January 1937, Los Angeles)
CD3:
◈Arnold Schoenberg: String Quartet No.3, op.30
Pro Arte Quartet of the University of Wisconsin
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Albert Rahier (2nd Vn)
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
(Rec. 24 January 1950, WOR Studios in New York)
◈Alban Berg: Lyric SuitePro Arte Quartet of the University of Wisconsin
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Albert Rahier (2nd Vn)
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
(Rec. 2 February 1950, WOR Studios in New York)
CD4:
◈Arnold Schoenberg: Concerto for Violin and Orchestra, op.36
Rudolf Kolisch (Vn)
Wisconsin Festival Orchestra / René Leibowitz
(Rec. 7 May 1967, Madison Wisconsin)
◈Rudolf Kolisch interview with Will Ogdon(Rec. 1964, Darmstadt)
◈Béla Bartók: Sonata for Solo ViolinRudolf Kolisch (Vn)
(Rec. 7 May 1966, Madison Wisconsin)
CD5:
◈Béla Bartók: String Quartet No.5
Pro Arte Quartet of the University of Wisconsin
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Albert Rahier (2nd Vn)
Germain Prévost (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
Germain Prévost (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
(Rec. 26 January 1945, Washington D.C.)
◈Arnold Schoenberg: Fantasie, op.47Rudolf Kolisch (Vn)
Gunner Johansen (Pf)
Gunner Johansen (Pf)
(Rec. 1966, Madison Wisconsin)
◈Arnold Schoenberg: String Quartet in D majorPro Arte Quartet of the University of Wisconsin
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Albert Rahier (2nd Vn)
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
(Rec. 7 February 1952, Washington D.C.)
CD6:
◈Anton Webern: Five movements for String Quartet, op.5
◈Anton Webern: Six Bagatelles for String Quartet, op.9
Pro Arte Quartet of the University of Wisconsin
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Albert Rahier (2nd Vn)
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
Bernard Milofsky (Vla), Ernst Fiedlander (Vc)}
(Rec. 7 February 1952, Washington D.C.)
◈Franz Schubert: Octet in F major, op.166Eric Simon (Cl)
Wendell Hoss (Hrn)
Leonard Sharrow (Fg)
Kolisch Quartet
Wendell Hoss (Hrn)
Leonard Sharrow (Fg)
Kolisch Quartet
{Rudolf Kolisch (1st Vn), Felix Khuner (2nd Vn)
Jascha Veissi (Vla), Stefan Auber (Vc)}
Jascha Veissi (Vla), Stefan Auber (Vc)}
Anthony Zentrick (Cb)
(Rec. 14 April 1940, Washington D.C.)
ルドルフ・コーリッシュ(Rudolf Kolisch, 1896-1978)は、オーストリア出身のヴァイオリニストです。彼は、幼年期に右手の関節炎にかかったため、左手用の楽器で演奏していました。
コーリッシュは、ウィーン音楽院でオタカール・シェフチークにヴァイオリンを学んだほか、音楽理論をグイド・アドラーに学び、フランツ・シュレーカーから作曲を学び、フランツ・シャルクから指揮法を教授されています。
さらに、1919年からはアルノルト・シェーンベルク(Arnold Schoenberg, 1874-1951)の元で研鑽を積み、シェーンベルクの主催する私的演奏協会で演奏者として経験をつむことで、室内楽のヴァイオリニストとして頭角を現していきました。1921年には、シェーンベルクの助言に従って弦楽四重奏団を結成し、1924年ごろからウィーン弦楽四重奏団を名乗るようになりましたが、次第に第2ヴァイオリン奏者を務めていたフリッツ・ロスチャイルドとそりが合わなくなったため、1927年に人事を一新してコーリッシュ四重奏団を名乗るようになりました。
コーリッシュ四重奏団は、新ウィーン楽派の作曲家のみならず、ベーラ・バルトーク(Béla Bartók, 1881-1945)ら同時代の作曲家たちから高い信頼を得た四重奏団であり、シェーンベルクの弦楽四重奏曲やアルバン・ベルク(Alban Berg, 1885-1935)の抒情組曲など、20世紀の重要な室内楽の初演を手がけていることでも知られています。
1939年までは、フェリックス・クーナー(Felix Khuner, 1906-1991)、ハンガリーのヴィオリストであるオイゲン・レーナー(Eugen Lehner, 1906-1997)、ロシア人チェリストのベナール・ハイフェッツ(Benar Heifetz, 1899-1974)の面子で活動しており、本CD集の1枚目と2枚目の演奏は、このメンバーでの収録となっております。
1939年に、レーナーがフィラデルフィア管弦楽団に就職し、B.ハイフェッツもボストン交響楽団に就職してしまったため、ヴィオラの席にロシア人ヴィオリストのヤッシャ・ヴェイジ(Jascha Veissi, 1898-1983)を、チェロの席にオーストリアから亡命してきたステファン・オーベール(Stefan Auber, 1903-1986)を迎えて演奏活動を継続しています。本CD集の6枚目に収録されているフランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797-1828)では、この最後期のメンバーが録音に参加しています。なお、この演奏には、コントラバシストのアンソニー・ゼントリック(Anthony Zentrick)のほか、ベニー・グッドマンの師匠として知られたオーストリア出身のクラリネット奏者であるエリック・サイモン(Eric Simon、1907-1994)と、NBC交響楽団の首席ホルン奏者だったヴェンデル・ホス(Wendell Hoss, 1892-1980)、ホスと同じくNBC交響楽団の首席奏者を務めたファゴット奏者のレナード・シャーロー(Leonard Sharrow, 1915-2004)が共演しています。
1940年代のコーリッシュは、指揮者のオットー・クレンペラーと組んでシェーンベルクら同時代の音楽をアメリカに紹介したり、シェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の録音に参加したりと、精力的に活動していましたが、1944年にウィスコンシン大学のヴァイオリン科の教授に就任し、この大学の座付き弦楽四重奏団であるプロ・アルテ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者として活躍しています。
プロ・アルテ弦楽四重奏団は、アルフォンス・オンヌーらによって1912年ごろに結成されたベルギーの弦楽四重奏団で、結成当時、全員がベルギー出身のブリュッセル音楽院卒業者でした。クラシック音楽のオールド・ファンや、ヒストリカル音源が好きな人にとっては、オンヌーがいたころが、「プロ・アルテ弦楽四重奏団」だと思われています。
オンヌーらのプロ・アルテ弦楽四重奏団は、1920年代半ばからアメリカでの演奏活動にシフトしていき、ウィスコンシン州のマディソンを本拠に活動するようになりますが、1940年にオンヌーが第二次世界大戦に従軍して戦死してしまい、一旦活動を停止してしまいました。
コーリッシュがウィスコンシンにやってきたときに、そこに住んでいた初代メンバーのジェルマン・プレヴォー(Germain Prévost, 1891-1987)に声をかけ、プロ・アルテ弦楽四重奏団の看板を掲げなおして活動を再開し、1950年からはウィスコンシン大学の座付き弦楽四重奏団として脈々と受け継がれています。なお、プレヴォーは1947年にこの弦楽四重奏団から離れ、サンフランシスコ交響楽団に就職することになりました。プレヴォーが在籍していた時期の演奏として、本CD集の5枚目に収録されているバルトークの弦楽四重奏曲第5番が収録されています。
このバルトークの四重奏曲は、コーリッシュが、かつてコーリッシュ四重奏団で初演し、献呈を受けた作品で、大変思い入れのある演奏です。とはいえ、情に流された演奏では決してなく、作品の輪郭を厳格に描き出し、隙のないアンサンブルでしっかりと練り上げた演奏です。歴史的ドキュメントとしてだけでなく、演奏自体も傑出した出来栄えなので、バルトークの弦楽四重奏曲に興味のある人は、是非とも一聴をお勧めしたいところです。
室内楽―特にシェーンベルクの弦楽四重奏曲のスペシャリストとして名高かったコーリッシュですが、ソリストとしても活動をしており、本CD集の4枚目には、ルネ・レイボヴィッツ(René Leibowitz, 1913-1972)の指揮するウィスコンシン音楽祭管弦楽団とシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲を演奏した記録と、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの演奏記録が収録されています。
コーリッシュと同じく、レイボヴィッツもシェーンベルクの信奉者であり、おそらく寄せ集めであろうオーケストラからバランスのよい響きを作り出し、見通しのよい音楽作りでコーリッシュのソロを支えています。情念を意図的に排除した、明晰な音楽作りが聴きものといえるでしょう。
バルトークの無伴奏ソナタも、無駄なものをそぎ落とそうとするストイックな解釈で、スッキリとした演奏を心がけています。
また、CD5には、グンナー・ヨハンセン(Gunner Johansen, 1906-1991)と共演したシェーンベルクの幻想曲も入っており、これもまた説得力のあるしっかりとした演奏です。
ヨハンセンは、デンマークに生まれたピアニストで、ドイツでフェルッチョ・ブゾーニやエゴン・ペトリ、エトヴィン・フィッシャーらに師事しました。ベートーヴェンやシューベルトの音楽を得意としていましたが、作曲家としても活動していたこともあって、同時代の音楽への造詣も深かったようです。
彼は、シカゴ大学やコロンビア大学、ウィスコンシン大学などで教鞭をとり、数多くのドイツ音楽を紹介した功績で知られていますが、コーリッシュとの共演は、シェーンベルクの音楽をアメリカの人たちに伝えるという使命で一致した演奏でした。
本CD集のテーマは、ルドルフ・コーリッシュの業績を、彼の遺した録音を通して称えることにありますが、シェーンベルクの弦楽四重奏曲の全曲がくまなく収録されていることは、ヒストリカル音源のコレクターにとって、何よりの喜びであろうと思います。
ロマン派の筆致で書かれた第1番や、ソプラノ独唱を加え、無調音楽への志向を打ち出した異色の第2番、そして無調音楽に着実に移行した第3番から十二音音楽の技法による第4番まで、シェーンベルクの作曲技術の変遷を辿ることができます。
なお、一枚目のCDで収録されている第2番の弦楽四重奏曲でソプラノ独唱をしているのは、アメリカ人歌手のクレメンス・ギフォード(Clemence Gifford)です。ソプラノからコントラルトまで幅広い声域を歌うことの出来た人らしく、コーリッシュ四重奏団の幾分ネットリとした響きにあわせ、深々とした歌唱で趣のある演奏を披露しています。こうしたコーリッシュ四重奏団でのシェーンベルクの弦楽四重奏へのアプローチは、19世紀までのウィーンの音楽文化とシェーンベルクの音楽が断絶しているわけではないということを、しっかりと示しています。
また、シェーンベルクの弦楽四重奏曲第3番ではプロ・アルテ弦楽四重奏団での演奏との聴き比べができ、コーリッシュ四重奏団での演奏をさらに精緻化した奏楽を聴くことができます。
精緻さという点では、アントン・ウェーベルン(Anton Webern, 1883-1945)の小品やバガテルの演奏にその特徴がよく現れています。ウェーベルンは、微小形式にこだわり、音楽を極限までそぎ落としていますが、その凝縮された音楽を、緊張度の高い演奏でしっかりと描き出しています。
ベルクの抒情組曲は、初演メンバーの演奏ではありませんが、プロ・アルテ弦楽四重奏団の精緻な合奏能力と、コーリッシュの奏でるヴァイオリンの仄かな色気がブレンドされ、作品の構造的把握にとどまらない、奥行きのある演奏が実現しています。
本CD集では、主に同時代の作曲家の作品の演奏が収録されており、19世紀以前の作品は、6枚目のCDに収録されているシューベルトの作品のみです。コーリッシュは、シェーンベルクから19世紀以前の作品もしっかり演奏するよう助言を受けており、18世紀から19世紀の室内楽曲も録音しています。そうした過去の作品の演奏もあわせて聴けば、コーリッシュにとって、あるいはコーリッシュを通してシェーンベルクらにとっての、自分の音楽語法の音楽史的位置づけを知ることができるのではないかと思います。
コーリッシュは、ウィーン音楽院でオタカール・シェフチークにヴァイオリンを学んだほか、音楽理論をグイド・アドラーに学び、フランツ・シュレーカーから作曲を学び、フランツ・シャルクから指揮法を教授されています。
さらに、1919年からはアルノルト・シェーンベルク(Arnold Schoenberg, 1874-1951)の元で研鑽を積み、シェーンベルクの主催する私的演奏協会で演奏者として経験をつむことで、室内楽のヴァイオリニストとして頭角を現していきました。1921年には、シェーンベルクの助言に従って弦楽四重奏団を結成し、1924年ごろからウィーン弦楽四重奏団を名乗るようになりましたが、次第に第2ヴァイオリン奏者を務めていたフリッツ・ロスチャイルドとそりが合わなくなったため、1927年に人事を一新してコーリッシュ四重奏団を名乗るようになりました。
コーリッシュ四重奏団は、新ウィーン楽派の作曲家のみならず、ベーラ・バルトーク(Béla Bartók, 1881-1945)ら同時代の作曲家たちから高い信頼を得た四重奏団であり、シェーンベルクの弦楽四重奏曲やアルバン・ベルク(Alban Berg, 1885-1935)の抒情組曲など、20世紀の重要な室内楽の初演を手がけていることでも知られています。
1939年までは、フェリックス・クーナー(Felix Khuner, 1906-1991)、ハンガリーのヴィオリストであるオイゲン・レーナー(Eugen Lehner, 1906-1997)、ロシア人チェリストのベナール・ハイフェッツ(Benar Heifetz, 1899-1974)の面子で活動しており、本CD集の1枚目と2枚目の演奏は、このメンバーでの収録となっております。
1939年に、レーナーがフィラデルフィア管弦楽団に就職し、B.ハイフェッツもボストン交響楽団に就職してしまったため、ヴィオラの席にロシア人ヴィオリストのヤッシャ・ヴェイジ(Jascha Veissi, 1898-1983)を、チェロの席にオーストリアから亡命してきたステファン・オーベール(Stefan Auber, 1903-1986)を迎えて演奏活動を継続しています。本CD集の6枚目に収録されているフランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797-1828)では、この最後期のメンバーが録音に参加しています。なお、この演奏には、コントラバシストのアンソニー・ゼントリック(Anthony Zentrick)のほか、ベニー・グッドマンの師匠として知られたオーストリア出身のクラリネット奏者であるエリック・サイモン(Eric Simon、1907-1994)と、NBC交響楽団の首席ホルン奏者だったヴェンデル・ホス(Wendell Hoss, 1892-1980)、ホスと同じくNBC交響楽団の首席奏者を務めたファゴット奏者のレナード・シャーロー(Leonard Sharrow, 1915-2004)が共演しています。
1940年代のコーリッシュは、指揮者のオットー・クレンペラーと組んでシェーンベルクら同時代の音楽をアメリカに紹介したり、シェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の録音に参加したりと、精力的に活動していましたが、1944年にウィスコンシン大学のヴァイオリン科の教授に就任し、この大学の座付き弦楽四重奏団であるプロ・アルテ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者として活躍しています。
プロ・アルテ弦楽四重奏団は、アルフォンス・オンヌーらによって1912年ごろに結成されたベルギーの弦楽四重奏団で、結成当時、全員がベルギー出身のブリュッセル音楽院卒業者でした。クラシック音楽のオールド・ファンや、ヒストリカル音源が好きな人にとっては、オンヌーがいたころが、「プロ・アルテ弦楽四重奏団」だと思われています。
オンヌーらのプロ・アルテ弦楽四重奏団は、1920年代半ばからアメリカでの演奏活動にシフトしていき、ウィスコンシン州のマディソンを本拠に活動するようになりますが、1940年にオンヌーが第二次世界大戦に従軍して戦死してしまい、一旦活動を停止してしまいました。
コーリッシュがウィスコンシンにやってきたときに、そこに住んでいた初代メンバーのジェルマン・プレヴォー(Germain Prévost, 1891-1987)に声をかけ、プロ・アルテ弦楽四重奏団の看板を掲げなおして活動を再開し、1950年からはウィスコンシン大学の座付き弦楽四重奏団として脈々と受け継がれています。なお、プレヴォーは1947年にこの弦楽四重奏団から離れ、サンフランシスコ交響楽団に就職することになりました。プレヴォーが在籍していた時期の演奏として、本CD集の5枚目に収録されているバルトークの弦楽四重奏曲第5番が収録されています。
このバルトークの四重奏曲は、コーリッシュが、かつてコーリッシュ四重奏団で初演し、献呈を受けた作品で、大変思い入れのある演奏です。とはいえ、情に流された演奏では決してなく、作品の輪郭を厳格に描き出し、隙のないアンサンブルでしっかりと練り上げた演奏です。歴史的ドキュメントとしてだけでなく、演奏自体も傑出した出来栄えなので、バルトークの弦楽四重奏曲に興味のある人は、是非とも一聴をお勧めしたいところです。
室内楽―特にシェーンベルクの弦楽四重奏曲のスペシャリストとして名高かったコーリッシュですが、ソリストとしても活動をしており、本CD集の4枚目には、ルネ・レイボヴィッツ(René Leibowitz, 1913-1972)の指揮するウィスコンシン音楽祭管弦楽団とシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲を演奏した記録と、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの演奏記録が収録されています。
コーリッシュと同じく、レイボヴィッツもシェーンベルクの信奉者であり、おそらく寄せ集めであろうオーケストラからバランスのよい響きを作り出し、見通しのよい音楽作りでコーリッシュのソロを支えています。情念を意図的に排除した、明晰な音楽作りが聴きものといえるでしょう。
バルトークの無伴奏ソナタも、無駄なものをそぎ落とそうとするストイックな解釈で、スッキリとした演奏を心がけています。
また、CD5には、グンナー・ヨハンセン(Gunner Johansen, 1906-1991)と共演したシェーンベルクの幻想曲も入っており、これもまた説得力のあるしっかりとした演奏です。
ヨハンセンは、デンマークに生まれたピアニストで、ドイツでフェルッチョ・ブゾーニやエゴン・ペトリ、エトヴィン・フィッシャーらに師事しました。ベートーヴェンやシューベルトの音楽を得意としていましたが、作曲家としても活動していたこともあって、同時代の音楽への造詣も深かったようです。
彼は、シカゴ大学やコロンビア大学、ウィスコンシン大学などで教鞭をとり、数多くのドイツ音楽を紹介した功績で知られていますが、コーリッシュとの共演は、シェーンベルクの音楽をアメリカの人たちに伝えるという使命で一致した演奏でした。
本CD集のテーマは、ルドルフ・コーリッシュの業績を、彼の遺した録音を通して称えることにありますが、シェーンベルクの弦楽四重奏曲の全曲がくまなく収録されていることは、ヒストリカル音源のコレクターにとって、何よりの喜びであろうと思います。
ロマン派の筆致で書かれた第1番や、ソプラノ独唱を加え、無調音楽への志向を打ち出した異色の第2番、そして無調音楽に着実に移行した第3番から十二音音楽の技法による第4番まで、シェーンベルクの作曲技術の変遷を辿ることができます。
なお、一枚目のCDで収録されている第2番の弦楽四重奏曲でソプラノ独唱をしているのは、アメリカ人歌手のクレメンス・ギフォード(Clemence Gifford)です。ソプラノからコントラルトまで幅広い声域を歌うことの出来た人らしく、コーリッシュ四重奏団の幾分ネットリとした響きにあわせ、深々とした歌唱で趣のある演奏を披露しています。こうしたコーリッシュ四重奏団でのシェーンベルクの弦楽四重奏へのアプローチは、19世紀までのウィーンの音楽文化とシェーンベルクの音楽が断絶しているわけではないということを、しっかりと示しています。
また、シェーンベルクの弦楽四重奏曲第3番ではプロ・アルテ弦楽四重奏団での演奏との聴き比べができ、コーリッシュ四重奏団での演奏をさらに精緻化した奏楽を聴くことができます。
精緻さという点では、アントン・ウェーベルン(Anton Webern, 1883-1945)の小品やバガテルの演奏にその特徴がよく現れています。ウェーベルンは、微小形式にこだわり、音楽を極限までそぎ落としていますが、その凝縮された音楽を、緊張度の高い演奏でしっかりと描き出しています。
ベルクの抒情組曲は、初演メンバーの演奏ではありませんが、プロ・アルテ弦楽四重奏団の精緻な合奏能力と、コーリッシュの奏でるヴァイオリンの仄かな色気がブレンドされ、作品の構造的把握にとどまらない、奥行きのある演奏が実現しています。
本CD集では、主に同時代の作曲家の作品の演奏が収録されており、19世紀以前の作品は、6枚目のCDに収録されているシューベルトの作品のみです。コーリッシュは、シェーンベルクから19世紀以前の作品もしっかり演奏するよう助言を受けており、18世紀から19世紀の室内楽曲も録音しています。そうした過去の作品の演奏もあわせて聴けば、コーリッシュにとって、あるいはコーリッシュを通してシェーンベルクらにとっての、自分の音楽語法の音楽史的位置づけを知ることができるのではないかと思います。
PR
Comment
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
Clock
ブログ内検索
カウンター
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
プロフィール
HN:
(´π`)
性別:
男性
自己紹介:
・・・。
カテゴリー
最新CM
[06/29 (^▽^)]
[06/16 ある晩のヴぇる君。]
[06/07 はじめまして]
[05/30 ある晩のヴぇる君。]
[05/29 ある晩のヴぇる君。]
最新TB
最新記事
(12/22)
(12/20)
(12/13)
(12/12)
(12/11)
アーカイブ
最古記事
(03/17)
(03/18)
(03/19)
(03/20)
(03/21)
地球儀もどき