1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
◈Johann Sebastian Bach: Das Wohltemperierte Clavier, Teil1, BWV846-869
Ralph Kirkpatrick (Clavichord)
(Rec. August & September 1959, Paris)
ラルフ・カークパトリック(Ralph Kirkpatrick, 1911-1984)によるヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)の平均律クラヴィーア曲集第1巻です。
カークパトリックといえば、ドメニコ・スカルラッティの作品整理番号の「カークパトリック番号」を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、そのカークパトリックと、本CDで演奏しているカークパトリックは同一人物です。
カークパトリックは、ワンダ・ランドフスカやギュンター・ラミンの薫陶を受けたほか、ハインツ・ティーセンやアーノルド・ドルメッチらからも教えを受け、演奏家兼音楽学者として幅広く活躍した人です。
本CDでは、カークパトリックは、ピアノやチェンバロではなく、クラヴィコードという楽器を使って録音していますが、これはカークパトリックなりの見識によって、この楽器での演奏が成されています。
カークパトリックは、曲名の「クラヴィーア」という言葉に着目し、この「クラヴィーア」が何を指し示す言葉であったのかについて考察しています。カークパトリックは、1689年に出版されたヨハン・クーナウのクラヴィーア練習曲の出版譜を証拠にし、ここでいうクラヴィーアがチェンバロド、クラヴィコード、小型のオルガンを指し示していたことを明らかにしています。また、カークパトリックによれば、J.S.バッハの息子の世代になると、クラヴィーアはクラヴィコードと同義として用いられるようになり、チェンバロについては、クラヴィシンバルだとかクラヴィチェンバロだとかキールフリューゲルといった言葉で表現され、クラヴィコード=クラヴィーアとしっかり区別されていたとのこと。こうしたことを踏まえて、イギリスで出版されたときに、"The Well Tempered Clavichord"と題名が翻訳されることになったのでした。
しかし、クラヴィコードがさほど用いられなかったフランスやイタリアでは"Le Clavier bien tempere"とか”Il Clavicembalo ben temperato”という風に訳され、チェンバロで弾く曲だとされてきました。この曲がチェンバロで弾かれる理由は、おそらく諸外国にこの曲が出回ったときに、チェンバロ用の曲だと見做されたからに他なりません。
しかし、J.S.バッハ自身は、クラヴィコードで弾かれるべきでオルガンやチェンバロ、はたまたピアノで弾くのはもってのほかだと主張していたわけではありません。自分が書き付けた「クラヴィーア」という言葉をどのように解するかは、この楽譜を手に取る人に委ねられています。
非常に微妙なタッチを要求する、デリケートな難易度の楽器をカークパトリックが選んだのは、その表現能力の豊かさに着目したがゆえのことで、カークパトリックにとって、この録音は一つの挑戦でもありました。そして、この録音によって、カークパトリックは、クラヴィコードでの演奏こそが正統だと主張しようとしたわけではありません。
クラヴィコードは、箱型の鍵盤楽器で、チェンバロに比べて軽く、場所も取らない楽器だったことと、チェンバロよりも安価な楽器だったため、ドイツの鍵盤楽器奏者御用達の楽器でした。
その発音原理は、箱に取り付けられた鍵盤を押すと、鍵盤に対応したレバーが持ち上がり、そのレバーの先に取り付けてある金属片が弦に当たって音が出るという仕組みです。強く鍵盤を押せば、金属片の弦に当たる圧力が上がるので、微妙に音程が上がります。ガンガン鍵盤を叩いてもピアノほどの音色の強弱はつけられません。また、弦には糸が巻きつけてあり、弦が共振したり、振動し続けたりするのを防いでいるので、鍵盤を離して金属片を弦に触れないようにすると、音はしなくなります。つまり、鍵盤に指が触れ、金属片が弦に当たっているときだけ音が出るようになっているのです。
クラヴィコードの特徴として、鍵盤を押したまま、その推す圧力を増減すると、微妙なヴィブラートがかけられる点が挙げられます。こうしたヴィブラートをかける引き方を、特に「ベープング」と呼びますが、このベープングこそが、チェンバロやピアノ、オルガンにはないクラヴィコードの強みの一つとなっています。
カークパトリックの演奏は、クラヴィコードの音量的制約をものともせず、繊細な音の糸で様々な織物を作り上げることに没頭しています。
総じてフーガよりもテンポの速い前奏曲のほうが音楽が間延びせず、煌びやかに聴こえますが、緩慢な曲でも、カークパトリックは微妙に音色を際立たせ、主声部と副声部の絡み合いに耳を向けるよう配慮をしています。
テンポの速い曲の中でも楽しい演奏は、嬰ハ長調のフーガであり、小さい音ながらもしっかりとした躍動感で輝かしさすら感じさせます。
緩慢な音楽では、嬰へ短調のフーガなど、か細い音でここまで大伽藍の世界を現出できるのかと思わせられ、カークパトリックの曲への共感度の高さをうかがわせます。
カークパトリックといえば、ドメニコ・スカルラッティの作品整理番号の「カークパトリック番号」を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、そのカークパトリックと、本CDで演奏しているカークパトリックは同一人物です。
カークパトリックは、ワンダ・ランドフスカやギュンター・ラミンの薫陶を受けたほか、ハインツ・ティーセンやアーノルド・ドルメッチらからも教えを受け、演奏家兼音楽学者として幅広く活躍した人です。
本CDでは、カークパトリックは、ピアノやチェンバロではなく、クラヴィコードという楽器を使って録音していますが、これはカークパトリックなりの見識によって、この楽器での演奏が成されています。
カークパトリックは、曲名の「クラヴィーア」という言葉に着目し、この「クラヴィーア」が何を指し示す言葉であったのかについて考察しています。カークパトリックは、1689年に出版されたヨハン・クーナウのクラヴィーア練習曲の出版譜を証拠にし、ここでいうクラヴィーアがチェンバロド、クラヴィコード、小型のオルガンを指し示していたことを明らかにしています。また、カークパトリックによれば、J.S.バッハの息子の世代になると、クラヴィーアはクラヴィコードと同義として用いられるようになり、チェンバロについては、クラヴィシンバルだとかクラヴィチェンバロだとかキールフリューゲルといった言葉で表現され、クラヴィコード=クラヴィーアとしっかり区別されていたとのこと。こうしたことを踏まえて、イギリスで出版されたときに、"The Well Tempered Clavichord"と題名が翻訳されることになったのでした。
しかし、クラヴィコードがさほど用いられなかったフランスやイタリアでは"Le Clavier bien tempere"とか”Il Clavicembalo ben temperato”という風に訳され、チェンバロで弾く曲だとされてきました。この曲がチェンバロで弾かれる理由は、おそらく諸外国にこの曲が出回ったときに、チェンバロ用の曲だと見做されたからに他なりません。
しかし、J.S.バッハ自身は、クラヴィコードで弾かれるべきでオルガンやチェンバロ、はたまたピアノで弾くのはもってのほかだと主張していたわけではありません。自分が書き付けた「クラヴィーア」という言葉をどのように解するかは、この楽譜を手に取る人に委ねられています。
非常に微妙なタッチを要求する、デリケートな難易度の楽器をカークパトリックが選んだのは、その表現能力の豊かさに着目したがゆえのことで、カークパトリックにとって、この録音は一つの挑戦でもありました。そして、この録音によって、カークパトリックは、クラヴィコードでの演奏こそが正統だと主張しようとしたわけではありません。
クラヴィコードは、箱型の鍵盤楽器で、チェンバロに比べて軽く、場所も取らない楽器だったことと、チェンバロよりも安価な楽器だったため、ドイツの鍵盤楽器奏者御用達の楽器でした。
その発音原理は、箱に取り付けられた鍵盤を押すと、鍵盤に対応したレバーが持ち上がり、そのレバーの先に取り付けてある金属片が弦に当たって音が出るという仕組みです。強く鍵盤を押せば、金属片の弦に当たる圧力が上がるので、微妙に音程が上がります。ガンガン鍵盤を叩いてもピアノほどの音色の強弱はつけられません。また、弦には糸が巻きつけてあり、弦が共振したり、振動し続けたりするのを防いでいるので、鍵盤を離して金属片を弦に触れないようにすると、音はしなくなります。つまり、鍵盤に指が触れ、金属片が弦に当たっているときだけ音が出るようになっているのです。
クラヴィコードの特徴として、鍵盤を押したまま、その推す圧力を増減すると、微妙なヴィブラートがかけられる点が挙げられます。こうしたヴィブラートをかける引き方を、特に「ベープング」と呼びますが、このベープングこそが、チェンバロやピアノ、オルガンにはないクラヴィコードの強みの一つとなっています。
カークパトリックの演奏は、クラヴィコードの音量的制約をものともせず、繊細な音の糸で様々な織物を作り上げることに没頭しています。
総じてフーガよりもテンポの速い前奏曲のほうが音楽が間延びせず、煌びやかに聴こえますが、緩慢な曲でも、カークパトリックは微妙に音色を際立たせ、主声部と副声部の絡み合いに耳を向けるよう配慮をしています。
テンポの速い曲の中でも楽しい演奏は、嬰ハ長調のフーガであり、小さい音ながらもしっかりとした躍動感で輝かしさすら感じさせます。
緩慢な音楽では、嬰へ短調のフーガなど、か細い音でここまで大伽藍の世界を現出できるのかと思わせられ、カークパトリックの曲への共感度の高さをうかがわせます。
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