1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
◈Ludwig van Beethoven: Piano Sonata No.8 in C minor, op.13 "Pathétique"
◈Ludwig van Beethoven: Piano Sonata No.14 in C sharp minor, op.27-2 "Moonlight"
◈Ludwig van Beethoven: Piano Sonata No.23 in F minor, op.57 "Appassionata"
Samson François (Pf)
(Rec. 19, 25 & 26 February , 8 March, 12, 29 & 30 April 1963, Salle Wagram. Paris)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770-1827)のピアノ・ソナタの中でも人気の高い3曲を選んで、サンソン・フランソワ(Samson François, 1924-1970)が録音したアルバムです。
フランスのピアニストの中には、ことのほかベートーヴェンの作品を得意とした人もいたようで、例えばイヴ・ナットやイヴォンヌ・ルフェビュールといった往年のピアニストたちは、ベートーヴェンの作品解釈に一家言を持っていました。なお、ルフェビュールは、フランソワの師の一人として知られています。
フランソワは、特にマルグリット・ロンの門下として知られ、ロンの得意としたフレデリック・ショパンやクロード・ドビュッシーといった、フランスで活躍した作曲家の作品に出色の出来栄えを示したピアニストでした。
ロンは、フランソワのもう一人の師であるルフェビュール同様、ベートーヴェンの作品にも造詣が深かったのですが、フランソワに関して言えば、寡聞にしてベートーヴェンを得意としたという話は聞きません。
このアルバムに収録された《悲愴》、《月光》、《熱情》の3曲のソナタは、フランソワが正規に録音した、唯一のベートーヴェンの作品の録音とのことです。
1799年に発表された《悲愴》のソナタは、リヒノフスキー侯爵に捧げられたもの。形式重視の作風から、次第に上官を盛り込んだ作風へとシフトしていった時期の作品で、特に第二楽章のメロディは、ベートーヴェンの作ったメロディの中でも屈指のものとされています。なお、ベートーヴェン自身この作品に愛着があったのか、「悲愴」(Pathétique)というタイトルを、自分でつけています。
《月光》のソナタは、1802年に出版された2曲の「幻想的ソナタ」の片割れです。作品は、ベートーヴェンの「不滅の恋人」候補のジュリエッタ・グイッチャルディに捧げられています。この曲については、日本では小学校の読み物として語られることがあります。月明かりに照らされた街の道を歩いていたベートーヴェンが、とある家から聴こえてくるピアノの音を聴き、その家を覗いてみると、盲目の少女がピアノを弾いていたという話です。その情景に感動し、少女の家を訪れてピアノを即興で弾いて聴かせたベートーヴェンが、家路についてから、その演奏を思い出して楽譜に書きとめた・・・という《月光》ソナタ誕生が語られるのですが、史実的には、そういった話はありません。
「月光」(Moonlight)というタイトル自体、このソナタの第1楽章を聴いたルートヴィヒ・レルシュタープが月の光が差し込む情景を思い浮かべたことに端を発しているといわれ、ベートーヴェン自身が月夜の光をイメージしたかどうかは定かではありません。
《熱情》ソナタは、1804年から翌年にかけて書かれたと思われる作品で、ブルンスウィック伯爵に献呈されています。この「熱情」というタイトルも、後世の人が勝手につけたタイトルで、ベートーヴェンの意図ではありません。
この作品で、ベートーヴェンは情感と形式の両立に成功しました。この作品に満足したベートーヴェンは、しばらくこのジャンルから離れることになります。実際、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも、とりわけ完成度の高い作品として、広く演奏されています。
フランソワの演奏は、ベートーヴェンの作品の形式的な側面にこだわらず、あくまで自分流の感じ方で作品を翻訳し、ドラマティックな演奏を実現しています。テンポを自在に揺らし、音の粒を敢えてそろえないで、独特のイントネーションをつけ、作品を媒介にした独自の世界を構築しています。
フランソワのピアノの譜面にあった曲がたまたまベートーヴェンの楽譜だっただけのような、癖の強い演奏で、《月光》のソナタでは、ソナタという骨格よりも、作品から香り立つ幻想をデフォルメしており、おなじみの曲なのに全く先の読めないスリルを味わわせてくれます。
邪道といえば邪道ですが、邪道もまたひとつの道です。
フランスのピアニストの中には、ことのほかベートーヴェンの作品を得意とした人もいたようで、例えばイヴ・ナットやイヴォンヌ・ルフェビュールといった往年のピアニストたちは、ベートーヴェンの作品解釈に一家言を持っていました。なお、ルフェビュールは、フランソワの師の一人として知られています。
フランソワは、特にマルグリット・ロンの門下として知られ、ロンの得意としたフレデリック・ショパンやクロード・ドビュッシーといった、フランスで活躍した作曲家の作品に出色の出来栄えを示したピアニストでした。
ロンは、フランソワのもう一人の師であるルフェビュール同様、ベートーヴェンの作品にも造詣が深かったのですが、フランソワに関して言えば、寡聞にしてベートーヴェンを得意としたという話は聞きません。
このアルバムに収録された《悲愴》、《月光》、《熱情》の3曲のソナタは、フランソワが正規に録音した、唯一のベートーヴェンの作品の録音とのことです。
1799年に発表された《悲愴》のソナタは、リヒノフスキー侯爵に捧げられたもの。形式重視の作風から、次第に上官を盛り込んだ作風へとシフトしていった時期の作品で、特に第二楽章のメロディは、ベートーヴェンの作ったメロディの中でも屈指のものとされています。なお、ベートーヴェン自身この作品に愛着があったのか、「悲愴」(Pathétique)というタイトルを、自分でつけています。
《月光》のソナタは、1802年に出版された2曲の「幻想的ソナタ」の片割れです。作品は、ベートーヴェンの「不滅の恋人」候補のジュリエッタ・グイッチャルディに捧げられています。この曲については、日本では小学校の読み物として語られることがあります。月明かりに照らされた街の道を歩いていたベートーヴェンが、とある家から聴こえてくるピアノの音を聴き、その家を覗いてみると、盲目の少女がピアノを弾いていたという話です。その情景に感動し、少女の家を訪れてピアノを即興で弾いて聴かせたベートーヴェンが、家路についてから、その演奏を思い出して楽譜に書きとめた・・・という《月光》ソナタ誕生が語られるのですが、史実的には、そういった話はありません。
「月光」(Moonlight)というタイトル自体、このソナタの第1楽章を聴いたルートヴィヒ・レルシュタープが月の光が差し込む情景を思い浮かべたことに端を発しているといわれ、ベートーヴェン自身が月夜の光をイメージしたかどうかは定かではありません。
《熱情》ソナタは、1804年から翌年にかけて書かれたと思われる作品で、ブルンスウィック伯爵に献呈されています。この「熱情」というタイトルも、後世の人が勝手につけたタイトルで、ベートーヴェンの意図ではありません。
この作品で、ベートーヴェンは情感と形式の両立に成功しました。この作品に満足したベートーヴェンは、しばらくこのジャンルから離れることになります。実際、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも、とりわけ完成度の高い作品として、広く演奏されています。
フランソワの演奏は、ベートーヴェンの作品の形式的な側面にこだわらず、あくまで自分流の感じ方で作品を翻訳し、ドラマティックな演奏を実現しています。テンポを自在に揺らし、音の粒を敢えてそろえないで、独特のイントネーションをつけ、作品を媒介にした独自の世界を構築しています。
フランソワのピアノの譜面にあった曲がたまたまベートーヴェンの楽譜だっただけのような、癖の強い演奏で、《月光》のソナタでは、ソナタという骨格よりも、作品から香り立つ幻想をデフォルメしており、おなじみの曲なのに全く先の読めないスリルを味わわせてくれます。
邪道といえば邪道ですが、邪道もまたひとつの道です。
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