1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
CD1:
◈Maurice Ravel: Pavane pour une infante défunte
◈Maurice Ravel: Le Tombeau de Couperin
◈Maurice Ravel: Sérénade grotesque
◈Maurice Ravel: Jeux d'eau
◈Maurice Ravel: Valses noble et sentimentales
◈Maurice Ravel: La Valse
Louis Lortie (Pf)
(Rec. 18-20 February and 16 & 17 March 1988, Snape Maltings Concert Hall, Suffolk)
CD2:
◈Maurice Ravel: Gaspard de la nuit
◈Maurice Ravel: Menuet antique
◈Maurice Ravel: Menuet sur le nom d'Haydn
◈Maurice Ravel: À la manière de... Borodine
◈Maurice Ravel: À la manière de... Chabrier
◈Maurice Ravel: PrèLude in A minor
◈Maurice Ravel: Miroirs
◈Maurice Ravel: Sonatine
Louis Lorties (Pf)
(Rec. 18-20 February and 16 & 17 March 1988, Snape Maltings Concert Hall, Suffolk)
ルイ・ロルティ(Louis Lortie, 1959-)によるモーリス・ラヴェル(Maurice Ravel, 1875-1937)のピアノ独奏曲全集です。
作品演奏は作曲者と同国籍ないし同地方出身の演奏者に限るという判断基準に従えば、このピアノ独奏曲全集の作品の作曲者のラヴェルはフランス人、演奏者のロルティはカナダ人ということで、基準から漏れてしまいます。
カナダはフランスの文化と関わりが深く、ロルティの生まれたモントリオールではフランス語がよく使われてるわけですが、「ロルティはフランス人ではない」という先入見で、彼をラヴェルの作品の名演奏家リストから排除するのは残念なことです。
ロルティは、ポスト・グレン・グールド世代として、非常に期待された名手。1984年にはブゾーニ国際ピアノ・コンクールで優勝してみたり、リーズ国際ピアノ・コンクールで第4位(第1位はジョン・キムラ・パーカー)に入ったりと、テクニック面では鉄壁の完成度を誇るピアニストです。
最近はシャンドスというイギリスのレーベルと専属契約を結んで、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲録音を刊行したり、フランツ・リストの作品集でCDを作ったりと、かのレーベルの看板アーティストとして存在感をキープしています。
本CDに収録の演目は、
・亡き王女のためのパヴァーヌ (1899年作)
・クープランの墓 (1914~1917年作)
・グロテスクなセレナード (1893年頃作)
・水の戯れ (1901年作)
・高雅で感傷的なワルツ (1911年作)
・ラ・ヴァルス (1919~1920年作)
・夜のガスパール (1908年作)
・古風なメヌエット (1895年作)
・ハイドンの名によるメヌエット (1909年作)
・ボロディン風に (1913年作)
・シャブリエ風に (1913年作)
・前奏曲 イ短調 (1913年作)
・鏡 (1904~1905年作)
・ソナチネ (1903~1905年作)
です。
《亡き王女のためのパヴァーヌ》は、ルーブル美術館にあったディエゴ・ベラスケスのマルガリータ王女の肖像画からインスパイアされたという話が伝わっていますが、実際のところは、韻を踏んだ題名を考えたところ、こういう題名になったのだとか。しかし、曲を聴きながら、在りし日のスペインの宮廷に思いを馳せるのも、さほど感傷の妨げにならぬことでしょう。
《クープランの墓》も、その題名を《亡き王女のためのパヴァーヌ》と同じように真面目に翻訳した結果、「墓」ちうネーミングが定着してしまっています。タイトルを意訳すればすれば「クープランに寄せる挽歌」といったところでしょうか。ただ、この組曲は、第一次世界大戦で命を失った友人たちに一曲ずつ捧げられており、第一次世界大戦の戦死者への墓碑という意味も含まれています。なお、この組曲は、〈プレリュード〉、〈フーガ〉、〈フォルラーヌ〉、〈リゴードン〉、〈メヌエット〉、〈トッカータ〉と、舞曲を含んだ古風な器楽組曲に仕上げており、フランスにおけるバロック時代のチェンバロ曲を意識した筆致が認められます。
こうして、フランソワ・クープランの生きた時代への憧憬と、戦死者への追悼の意味が織り交ぜられることにより、「クープランの墓」という題名の日本語訳は、ラヴェルの真意を図らずも言い当てることになったのかもしれません。
《グロテスクなセレナード》は、ラヴェルが書いた本格的なピアノ曲の処女作とされている作品。
彼自身は「セレナード」とだけ標題をつけましたが、後年、「グロテスク」という形容詞をつけて作品にコメントをつけたため、第二次世界大戦後にこの曲を出版する段になって、今日の題名がつけられることになりました。
ふと《鏡》の〈道化師の朝の歌〉のパッセージが顔を出し、エマニュエル・シャブリエやイサーク・アルベニスの雰囲気をちらつかせます。その和声の使い方にクロード・ドビュッシーの影響を指摘する向きもありますが、若書きゆえか、色々と未消化な音楽になっています。
《水の戯れ》は、噴水の印象を音で見事に描ききり、ピアノ曲に置ける印象主義の嚆矢とまで言われた名作です。個人的には、レオナルド・ダ・ヴィンチの水のスケッチをイメージします。様々なアルペジオを組み合わせて水の動きの細かさを表現していくラヴェルの簡にして要を得た筆致が光ります。ラヴェルは、これらのアルペジオを勝手に弾き飛ばしたりテンポを伸縮させたりしないように注文をつけており、ラヴェルのピアノ作品の中でも特に難易度の高い作品とされています。
《高雅で感傷的なワルツ》は、シューベルトのワルツを模した作品としてラヴェルが発表した作品。ルイ・おベールの手で行われた初演では、誰が作った作品かを当てるクイズが催され、ほとんどラヴェルの作品だとは気付かなかったのだとか。
後年、バレエ用にオーケストレーションを施し、オーケストラ曲としても人気を博している作品です。
《ラ・ヴァルス》はワルツの発生から破綻するまでを描いたオーケストラのための作品ですが、ラヴェルは、ピアノでも弾けるように、ピアノ用の編曲も残しています。二台用のピアノのバージョンと、ソロ用のバージョンがあり、ソロ用のバージョンは非常に難易度が高いことから、ピアニストたちの腕試しによく弾かれています。
《夜のガスパール》は、ルイ・ベルトランの詩集から「オンディーヌ」、「絞首台」、「スカルボ」の三つを選び出し、それぞれを音楽化した作品。急-緩-急の3楽章によるソナタのようでありながら、調性が統一されていないという割り切れなさもある作品です。特に、最後の〈スカルボ〉が難曲中の難曲とされています。
《古風なメヌエット》は、まだ20歳だったラヴェルの書いた不思議な作品。メヌエット自体は17世紀のフランスの民俗舞踊が発祥で、フランス宮廷で愛好されるようになってヨーロッパじゅうに広まった舞曲です。ラヴェルは、その舞曲に、16世紀以前の雰囲気を纏わせて、「古風」と称したのでした。古い音楽への嗜好を自虐的に盛り込むことで、不思議なメヌエットを完成させたラヴェルのアイデアが光ります。1930年頃になって、ラヴェルはこの曲をオーケストラ用に編曲して演奏しています。
《ハイドンの名によるメヌエット》は「レヴュー・ミュジカル」というパリの音楽雑誌がヨーゼフ・ハイドンの没後100年企画としてパリ在住の作曲家たちにハイドンをネタに曲を書くように要請し、ラヴェルがその要請にこたえる形で完成させた作品です。作品を作るにあたっては、ハイドンの名前の綴りを、一定の法則に基づいて音名化し、その音名化した動機を使って作品を作るといお題を出しました。
そこで用いられた法則とは、まず、アルファベットをAからGまで並べます。こうすることで、「ラ」の音から「ソ」の音までのマスを作ることが出来ます。
そのあとに、AからGのマスの下に、同じようにHからNまで並べ、さらにその下に、OからUまでを並べ、さらに下の段にVからZまで並べます。
こうして、「HAYDN」のそれぞれの文字が属する列を音名として採用することにしました。ただし、Hの文字は、ドイツ語音名で、英語音名の「B」に相当することから、Hの文字だけBの音を当てることにし、「BADDG」という音の並び、すなわち「シラレレソ」という音の並びを動機として使うという提案がなされたのでした。
《ボロディン風に》と《シャブリエ風に》は、パロディを作ることに当時凝っていた友人のアルフレッド・カゼッラがラヴェルに提案して作曲家させた作品です。《ボロディン風に》は、ボロディンの雰囲気だけ頂戴して、彼の語法は全く使わないという、パロディへのパロディになっています。一方、《シャブリエ風に》は、シャルル・グノーの《ファウスト》のアリアをシャブリエのスタイルで編曲した作品で、偉大なる先達へのオマージュの意味を込めています。
《前奏曲》は、調号が書き込まれていないので形式上はイ短調ですが、実質はホ短調という作品。
パリ音楽院の初見視奏のテスト用に作った作品でした。この作品は、テストで素晴らしい演奏を披露したジャンヌ・ルルーに献呈されたとのこと。
《鏡》は、第4曲の〈道化師の朝の歌〉で知られるピアノ用の組曲です。全部で5曲からなり、他の4曲は〈蛾〉、〈悲しげな鳥たち〉、〈海原の小舟〉、〈鐘の谷〉というタイトルがついています。このうち、〈海原の小船〉と〈道化師の朝の歌〉はオーケストラ用に編曲されて独立しました。
《ソナチネ》は、《鏡》を書き終えた後に完成した作品。18世紀のソナタを意識して書かれており、第2楽章はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを意識していると言われています。美しいメロディがふんだんに盛り込まれた音楽ですが、「ソナチネ」という言葉ほどに作品として簡単ではありません。
ロルティの演奏は、ラヴェルの楽譜の指示にとことん忠実に従った録音として、その筋では大変話題になった録音です。
そのテクニシャンぶりは、《ラ・ヴァルス》のピアノ・ソロ用バージョンの豪華絢爛ぶりで存分に味わえますが、《水の戯れ》では、絶妙なタッチ・コントロールで水面の輝きと水のひんやりとした冷たさを十分にイメージさせてくれます。
ロルティは、思い入れを排して淡々と演奏しており、《亡き王女のためのパヴァーヌ》などは、そのあっさりとした味わいが逆に爽やかさにつながり、《古風なメヌエット》や《クープランの墓》においても、作品の造形の確かさを浮き彫りにすることに成功しています。《鏡》にしても、《夜のガスパール》にしても、アクロバティックな指の運動で終わるのではなく、それぞれの曲の性格付けまで綿密に行っています。
しかし、ラヴェルの楽譜の設計ゆえなのか、はたまたロルティのパーソナリティの反映なのかはわかりませんが、ラヴェルの楽譜に忠実であろうとするロルティの演奏は、しかし、決して無機的に響くことはありません。
無私の奉仕をしながら、そこにどこか温かみすら感じさせるところに、ロルティのパーソナリティが出ているのかもしれません。
作品演奏は作曲者と同国籍ないし同地方出身の演奏者に限るという判断基準に従えば、このピアノ独奏曲全集の作品の作曲者のラヴェルはフランス人、演奏者のロルティはカナダ人ということで、基準から漏れてしまいます。
カナダはフランスの文化と関わりが深く、ロルティの生まれたモントリオールではフランス語がよく使われてるわけですが、「ロルティはフランス人ではない」という先入見で、彼をラヴェルの作品の名演奏家リストから排除するのは残念なことです。
ロルティは、ポスト・グレン・グールド世代として、非常に期待された名手。1984年にはブゾーニ国際ピアノ・コンクールで優勝してみたり、リーズ国際ピアノ・コンクールで第4位(第1位はジョン・キムラ・パーカー)に入ったりと、テクニック面では鉄壁の完成度を誇るピアニストです。
最近はシャンドスというイギリスのレーベルと専属契約を結んで、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲録音を刊行したり、フランツ・リストの作品集でCDを作ったりと、かのレーベルの看板アーティストとして存在感をキープしています。
本CDに収録の演目は、
・亡き王女のためのパヴァーヌ (1899年作)
・クープランの墓 (1914~1917年作)
・グロテスクなセレナード (1893年頃作)
・水の戯れ (1901年作)
・高雅で感傷的なワルツ (1911年作)
・ラ・ヴァルス (1919~1920年作)
・夜のガスパール (1908年作)
・古風なメヌエット (1895年作)
・ハイドンの名によるメヌエット (1909年作)
・ボロディン風に (1913年作)
・シャブリエ風に (1913年作)
・前奏曲 イ短調 (1913年作)
・鏡 (1904~1905年作)
・ソナチネ (1903~1905年作)
です。
《亡き王女のためのパヴァーヌ》は、ルーブル美術館にあったディエゴ・ベラスケスのマルガリータ王女の肖像画からインスパイアされたという話が伝わっていますが、実際のところは、韻を踏んだ題名を考えたところ、こういう題名になったのだとか。しかし、曲を聴きながら、在りし日のスペインの宮廷に思いを馳せるのも、さほど感傷の妨げにならぬことでしょう。
《クープランの墓》も、その題名を《亡き王女のためのパヴァーヌ》と同じように真面目に翻訳した結果、「墓」ちうネーミングが定着してしまっています。タイトルを意訳すればすれば「クープランに寄せる挽歌」といったところでしょうか。ただ、この組曲は、第一次世界大戦で命を失った友人たちに一曲ずつ捧げられており、第一次世界大戦の戦死者への墓碑という意味も含まれています。なお、この組曲は、〈プレリュード〉、〈フーガ〉、〈フォルラーヌ〉、〈リゴードン〉、〈メヌエット〉、〈トッカータ〉と、舞曲を含んだ古風な器楽組曲に仕上げており、フランスにおけるバロック時代のチェンバロ曲を意識した筆致が認められます。
こうして、フランソワ・クープランの生きた時代への憧憬と、戦死者への追悼の意味が織り交ぜられることにより、「クープランの墓」という題名の日本語訳は、ラヴェルの真意を図らずも言い当てることになったのかもしれません。
《グロテスクなセレナード》は、ラヴェルが書いた本格的なピアノ曲の処女作とされている作品。
彼自身は「セレナード」とだけ標題をつけましたが、後年、「グロテスク」という形容詞をつけて作品にコメントをつけたため、第二次世界大戦後にこの曲を出版する段になって、今日の題名がつけられることになりました。
ふと《鏡》の〈道化師の朝の歌〉のパッセージが顔を出し、エマニュエル・シャブリエやイサーク・アルベニスの雰囲気をちらつかせます。その和声の使い方にクロード・ドビュッシーの影響を指摘する向きもありますが、若書きゆえか、色々と未消化な音楽になっています。
《水の戯れ》は、噴水の印象を音で見事に描ききり、ピアノ曲に置ける印象主義の嚆矢とまで言われた名作です。個人的には、レオナルド・ダ・ヴィンチの水のスケッチをイメージします。様々なアルペジオを組み合わせて水の動きの細かさを表現していくラヴェルの簡にして要を得た筆致が光ります。ラヴェルは、これらのアルペジオを勝手に弾き飛ばしたりテンポを伸縮させたりしないように注文をつけており、ラヴェルのピアノ作品の中でも特に難易度の高い作品とされています。
《高雅で感傷的なワルツ》は、シューベルトのワルツを模した作品としてラヴェルが発表した作品。ルイ・おベールの手で行われた初演では、誰が作った作品かを当てるクイズが催され、ほとんどラヴェルの作品だとは気付かなかったのだとか。
後年、バレエ用にオーケストレーションを施し、オーケストラ曲としても人気を博している作品です。
《ラ・ヴァルス》はワルツの発生から破綻するまでを描いたオーケストラのための作品ですが、ラヴェルは、ピアノでも弾けるように、ピアノ用の編曲も残しています。二台用のピアノのバージョンと、ソロ用のバージョンがあり、ソロ用のバージョンは非常に難易度が高いことから、ピアニストたちの腕試しによく弾かれています。
《夜のガスパール》は、ルイ・ベルトランの詩集から「オンディーヌ」、「絞首台」、「スカルボ」の三つを選び出し、それぞれを音楽化した作品。急-緩-急の3楽章によるソナタのようでありながら、調性が統一されていないという割り切れなさもある作品です。特に、最後の〈スカルボ〉が難曲中の難曲とされています。
《古風なメヌエット》は、まだ20歳だったラヴェルの書いた不思議な作品。メヌエット自体は17世紀のフランスの民俗舞踊が発祥で、フランス宮廷で愛好されるようになってヨーロッパじゅうに広まった舞曲です。ラヴェルは、その舞曲に、16世紀以前の雰囲気を纏わせて、「古風」と称したのでした。古い音楽への嗜好を自虐的に盛り込むことで、不思議なメヌエットを完成させたラヴェルのアイデアが光ります。1930年頃になって、ラヴェルはこの曲をオーケストラ用に編曲して演奏しています。
《ハイドンの名によるメヌエット》は「レヴュー・ミュジカル」というパリの音楽雑誌がヨーゼフ・ハイドンの没後100年企画としてパリ在住の作曲家たちにハイドンをネタに曲を書くように要請し、ラヴェルがその要請にこたえる形で完成させた作品です。作品を作るにあたっては、ハイドンの名前の綴りを、一定の法則に基づいて音名化し、その音名化した動機を使って作品を作るといお題を出しました。
そこで用いられた法則とは、まず、アルファベットをAからGまで並べます。こうすることで、「ラ」の音から「ソ」の音までのマスを作ることが出来ます。
そのあとに、AからGのマスの下に、同じようにHからNまで並べ、さらにその下に、OからUまでを並べ、さらに下の段にVからZまで並べます。
こうして、「HAYDN」のそれぞれの文字が属する列を音名として採用することにしました。ただし、Hの文字は、ドイツ語音名で、英語音名の「B」に相当することから、Hの文字だけBの音を当てることにし、「BADDG」という音の並び、すなわち「シラレレソ」という音の並びを動機として使うという提案がなされたのでした。
《ボロディン風に》と《シャブリエ風に》は、パロディを作ることに当時凝っていた友人のアルフレッド・カゼッラがラヴェルに提案して作曲家させた作品です。《ボロディン風に》は、ボロディンの雰囲気だけ頂戴して、彼の語法は全く使わないという、パロディへのパロディになっています。一方、《シャブリエ風に》は、シャルル・グノーの《ファウスト》のアリアをシャブリエのスタイルで編曲した作品で、偉大なる先達へのオマージュの意味を込めています。
《前奏曲》は、調号が書き込まれていないので形式上はイ短調ですが、実質はホ短調という作品。
パリ音楽院の初見視奏のテスト用に作った作品でした。この作品は、テストで素晴らしい演奏を披露したジャンヌ・ルルーに献呈されたとのこと。
《鏡》は、第4曲の〈道化師の朝の歌〉で知られるピアノ用の組曲です。全部で5曲からなり、他の4曲は〈蛾〉、〈悲しげな鳥たち〉、〈海原の小舟〉、〈鐘の谷〉というタイトルがついています。このうち、〈海原の小船〉と〈道化師の朝の歌〉はオーケストラ用に編曲されて独立しました。
《ソナチネ》は、《鏡》を書き終えた後に完成した作品。18世紀のソナタを意識して書かれており、第2楽章はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを意識していると言われています。美しいメロディがふんだんに盛り込まれた音楽ですが、「ソナチネ」という言葉ほどに作品として簡単ではありません。
ロルティの演奏は、ラヴェルの楽譜の指示にとことん忠実に従った録音として、その筋では大変話題になった録音です。
そのテクニシャンぶりは、《ラ・ヴァルス》のピアノ・ソロ用バージョンの豪華絢爛ぶりで存分に味わえますが、《水の戯れ》では、絶妙なタッチ・コントロールで水面の輝きと水のひんやりとした冷たさを十分にイメージさせてくれます。
ロルティは、思い入れを排して淡々と演奏しており、《亡き王女のためのパヴァーヌ》などは、そのあっさりとした味わいが逆に爽やかさにつながり、《古風なメヌエット》や《クープランの墓》においても、作品の造形の確かさを浮き彫りにすることに成功しています。《鏡》にしても、《夜のガスパール》にしても、アクロバティックな指の運動で終わるのではなく、それぞれの曲の性格付けまで綿密に行っています。
しかし、ラヴェルの楽譜の設計ゆえなのか、はたまたロルティのパーソナリティの反映なのかはわかりませんが、ラヴェルの楽譜に忠実であろうとするロルティの演奏は、しかし、決して無機的に響くことはありません。
無私の奉仕をしながら、そこにどこか温かみすら感じさせるところに、ロルティのパーソナリティが出ているのかもしれません。
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