1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
CD1:
◈Gicinto Scelsi: Âion
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 23-25 June 1988, Sainte-Catherine de Cracovie)
◈Gicinto Scelsi: Pfhat◈Gicinto Scelsi: Konx-Om-Pax
Chœur de la Philharmonie de Cracovie (Chorus master: Bronislawa Wietrzny)
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 23-25 June 1988, Sainte-Catherine de Cracovie)
CD2:
◈Giacint Scelsi: Quattro pezzi per Orchestra
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 12-20 April 1989, Sainte-Catherine de Cracovie)
◈Giacint Scelsi: AnahitCarmen Fournier (Vn)
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 12-20 April 1989, Sainte-Catherine de Cracovie)
strong>◈Giacint Scelsi: UaxutumIrena Urbanska(S)
Jadwiga Jakubiak(S)
Josef Dwojak (T)
Krzysztof Szafran(T)
Tristan Murail (Ondes Martenot)
Chœur de la Philharmonie de Cracovie (Chorus master: Bronislawa Wietrzny)
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
Jadwiga Jakubiak(S)
Josef Dwojak (T)
Krzysztof Szafran(T)
Tristan Murail (Ondes Martenot)
Chœur de la Philharmonie de Cracovie (Chorus master: Bronislawa Wietrzny)
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 12-20 April 1989, Sainte-Catherine de Cracovie)
CD3:
◈Giacinto Scelsi: Hurqualia
◈Giacinto Scelsi: Hymnos
◈Giacinto Scersi: Chukrum
Orchestre de la Radio-Télévision Polonaise de Cracovie / Jürg Wyttenbach
(Rec. 23-28 January 1967, Prague)
イタリアの作曲家、ジャチント・シェルシ(Giacinto Scelsi, 1905-1888)の作品集。
収録されている作品は、《アイオーン》(1961年作)、《プフハット》(1974年作)、《コンクス=オーム=パックス》(1969年作)、オーケストラのための4つの小品(1959年作)、《アナヒット》(1965年作)、《ウアクスクトゥム》(1966年作)、《フルクアリア》(1960年)、《ヒュムノス》(1963年)、《チャクラム》(1963年作)の9作品。これらの作品に於いて、シェルシはメロディアスな音の操作にはあまり興味を示さず、一つの音に、他の音を重ねて、その音のズレがもたらすうなりを鑑賞するという独自の視点を打ち出しています。
《アイオーン》は、「ブラフマの一日における4つのエピソード」という副題を持つオーケストラのための作品。ブラフマというのはヒンドゥー教の創造神のことです。
オーケストラのための作品と言っても、弦楽パートにはヴァイオリンのパートがありません。木管楽器はそれぞれ3人ずつですが、管楽セクションではフルートが除外されています。ホルンは6人、トランペットは3人、テューバとトロンボーンは各4人ずつとなっています。さらにハープ1台と、6人分のパーカッションのパートが備え付けられ、シェルシの作品の中では、規模の大きな作品になっています。シェルシの作品の多くは、なかなか初演されず、この作品も1985年になってケルン放送交響楽団(現:WDR交響楽団)が、ゾルターン・ペシュコの指揮で初演しています。
副題に4つのエピソードとあるように、4つの部分からなります。第1部はファ(F)の音からラ(A)の音を通って♯ソ(G sharp)の音へとゆるやかに遷移していく音楽です。第2部でもファ(F)の音を軸にして、ミ(E)の音と♭ソ(G flat)の音の間をウロウロします。第3部においては、♭ミ(E flat)の音から♯ファ(F sharp)の間をひたすら往来します。最後の第4部は♯ソの音と♯ラ(A sharp)の音の行き来を軸に据えながら、変ホ長調の主和音の構成音にも音を移動させる音楽になっております。メロディらしきメロディはほとんど出てきませんが、軸にする音のピッチを楽器間でずらしたり、倍音成分を鳴らしたり、突拍子もないサウンドを割り込ませたりすることで、夾雑な音の聴感上の豊かさを楽しませてくれます。
《プフハット》は、1986年に、《コンクス=オーム=パックス》と同じ日に、イェルク・ヴィッテンバッハ(Jürg Wyttenbach, 1935-)のタクトでフランクフルトのヘッセン放送のオーケストラと合唱団によって初演されました。
オーケストラと合唱のための作品ですが、本作品ではヴァイオリンとオーボエが省かれています。
作品には”Un éclat... et le ciel s'ouvrit!”(閃光…そして空が切り開かれた)という書き込みがあるとのこと。
ミの音を軸にして、レ(D)の音や♭ミの音を彷徨う作品ですが、4つの部分に分けられています。
最初はホルンの奏でるミの音に、合唱がひたすら呼吸音をかぶせます。次の部分ではオーケストラと合唱が爆発的な音で閃光を表し、さらに次の部分ではミの音の周辺を彷徨いながら、霧が晴れていく様を表現します。最後の部分ではパーカッションがひたすらトライアングルなどで金属的な音を奏で、雲が晴れたまばゆさを表現します。
《コンクス=オーム=パックス》も合唱つきのオーケストラ曲です。コンクスは古アッシリア語で、オームはサンスクリット語、パックスはラテン語とのこと。全て平和を意味する言葉だそうですが、シェルシによれば不変なるものの最初の働き、創造的な力、聖なる音節という、サウンドの3つの側面を明らかにしたものなのだとか。
3つの部分からなり、最初の部分ではド(C)の音を基本にしながら、様々な微分音をぶつけて音のうねりを作り出します。
さらに次の部分では、ファの音を基本にしながら、グリッサンドやポルタメントを多用して、一つのクライマックスを作り上げます。
最後の部分ではラの音を基本にして、合唱が聖なる音節としての「オーム」を繰り返します。シェルシは、バラバラに鳴っているオーケストラの音を、合唱の「オーム」という言葉で一つの方向性に収斂させていくことで、「平和」という概念の意味を音化しようとしたのかもしれません。
オーケストラのための4つの小品は、シェルシの作品の中でもとりわけよく知られた作品です。というのも、完成したその年のうちに、モーリス・ル・ルーがパリで初演したからです。
それぞれの小品について一つの音の線にこだわった作品であり、よく知られているシェルシの作風のプロトタイプといえそうです。
1曲目の小品は、オーケストラが一丸となってファの音を中心にして♭ラ(A flat)の音にまでにじり寄ります。
2曲目の小品は、シ(B)の音とド(C)の音の間を微妙に行き来する音楽です。
3曲目の小品は、♭ラの音を中心にしてラの音に行ったり戻ったりを繰り返します。
4曲目の小品は、ラの音と♭シ(B flat)の音を行き来する音楽です。
この作品は、音名で定められた音を上ずらせてみたり、管楽器の音の吹き込みを変化させたりすることで、独特のうねりを生み出しており、そのサウンドの多彩さを楽しむのが本作品のねらいと言えそうです。
《アナヒット》は、シェルシの書いたヴァイオリン協奏曲です。
「アナヒット」ギリシャ・ローマ神話ヴィーナスのエジプト版だそうですが、ヴィーナスに捧げる抒情詩として本作品は構想されました。1966年にアテネで演奏され、ドヴィ・エルリがヴァイオリン独奏を受け持ったとのこと。
シェルシらしく、伝統的なヴァイオリン協奏曲とは様相が全く異なり、ソリスティックな要素は全くありません。
♭シの音の辺りをうろつくオーケストラの上を、ヴァイオリン独奏がレの音の辺りをうろつく形でうつろなハーモニーを作り上げるという作品です。オーケストラもヴァイオリンも徐々に音程を上げて三和音を作ろうとしますが、その折り合いがつかないまま、音は減衰していきます。
《ウアクストゥム》は、1987年にケルンでハンス・ツェンダーによる指揮で、シェルシ臨席の下で行われたとのこと。「ウアクストゥム」は、本当は"Uaxuctùn"と綴るのが厳密らしいですが、シェルシは"Uaxutum"と綴っています。今のグァテマラにあったとされる、マヤ文明の都市のことを指し、政治的理由で消滅してしまったのだとか。
この神秘的なマヤ文明の都市に思いを馳せて作ったのが本作品ということになります。オンド・マルトノと声楽家たちの呼吸とを導入にし、いきなり12パートに分かれたコーラスが弾け出すあたりは圧巻です。パーカッションの荒々しさや、4人のソリストと合唱のやりとりの神秘性など、印象的な部分に事欠かない作品なのですが、そのうねるような音楽の展開は、かなりドラマティックなものです。
《フルクアリア》は、2枚目CDに収録された1959年作の4つの小品をより発展させる形で手掛けた作品。1986年にアムステルダムでアルトゥール・タマヨの指揮で初演されました。
4つの小品が比較的小人数編成のオーケストラを当て込んで書いたものなのに対し、この作品はフル・オーケストラ用に書いた最初の作品となります。この題名もサンスクリット語に由来するとのことで、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に着想があると考えられています。
大オーケストラを扱ったシェルシの本作品は、4つの小品で試した語法をさらに拡大し、さらに音色を厚塗りしているので、音色に凶暴性が加わり、さらにパーカッションの充実によって躍動感が増しています。
《ヒュムノス》は、そのタイトルをギリシャ語でいうところの「神話」の意味を持ちます。前述の《アイオーン》や《フルクアリア》と並んでシェルシのオーケストラ三部作の一つに数えられることもあります。
レの音を基本にして、ニ短調の和音を作ろうとしたり変ロ長調の和音に遷移しようとしたりする作品ですが、ヴァイオリンなど高音部が微分音を使って独特の響きを生みだしているのが面白いところです。
《チャクルム》は弦楽合奏のための作品。題名は「支点」という意味なのだとか。
弦楽四重奏の発展形として手掛けたこの作品では、部分的に15声部くらいにまで細分化されています。虫の羽音を思わせるようなトレモロの連続とトーン・クラスターの組み合わせで、圧倒的な音響世界の構築に成功した音楽です。
本CDは、《プフハット》や《コンクス=オーム=パックス》の初演を指揮したヴィッテンバッハが、クラクフ・ポーランド放送管弦楽団と合唱団を用いて録音しています。ヴィッテンバッハはスイスの人で、ベルン音楽大学でシャンドール・ヴェレシュ門下の作曲家でもあります。この一連の録音では、作曲家として先輩格のシェルシの作品を、ただの音のモニュメントに終わらせるのではなく、血の通ったエモーショナルな音楽として再生しようとしている点に妙味があります。《アイオーン》をはじめとする管弦楽作品の畳みかけるような楽器の積み重ねを、ただの珍妙な積み重ねに終わらせるのではなく、しっかりと緊張感を持続させており、これらの作品の名演奏としての存在感を、今後とも確保していくことでしょう。
カナダ人ヴァイオリニストのカルメン・フルニエ(Carmen Fournier, 1969-)が《アナヒット》のヴァイオリン独奏を担当していますが、ヴィッテンバッハのオーケストラを向こうに回して集中度の高い演奏を聴かせてくれています。
《ウアクスクトゥム》では、ソプラノ歌手としてイレーナ・ウルバンスカ(Irena Urbańska)とヤドヴィガ・ヤクビアク(Jadwiga Jakubiak)、テノール歌手としてヨーゼフ・ドヴォヤク(Josef Dwojak)とクシシュトフ・サフラン(Krzysztof Szafran)といったポーランドの歌手たちが出演していますが、フランス人作曲家のトリスタン・ミュライユ(Tristan Murail, 1947-)がオンド・マルトノ奏者として参加しております。ミュライユはオリヴィエ・メシアンの門下生として知られていますが、シェルシのアシスタントを務めていたこともあり、シェルシをよく知る人物の一人でもあります。
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収録されている作品は、《アイオーン》(1961年作)、《プフハット》(1974年作)、《コンクス=オーム=パックス》(1969年作)、オーケストラのための4つの小品(1959年作)、《アナヒット》(1965年作)、《ウアクスクトゥム》(1966年作)、《フルクアリア》(1960年)、《ヒュムノス》(1963年)、《チャクラム》(1963年作)の9作品。これらの作品に於いて、シェルシはメロディアスな音の操作にはあまり興味を示さず、一つの音に、他の音を重ねて、その音のズレがもたらすうなりを鑑賞するという独自の視点を打ち出しています。
《アイオーン》は、「ブラフマの一日における4つのエピソード」という副題を持つオーケストラのための作品。ブラフマというのはヒンドゥー教の創造神のことです。
オーケストラのための作品と言っても、弦楽パートにはヴァイオリンのパートがありません。木管楽器はそれぞれ3人ずつですが、管楽セクションではフルートが除外されています。ホルンは6人、トランペットは3人、テューバとトロンボーンは各4人ずつとなっています。さらにハープ1台と、6人分のパーカッションのパートが備え付けられ、シェルシの作品の中では、規模の大きな作品になっています。シェルシの作品の多くは、なかなか初演されず、この作品も1985年になってケルン放送交響楽団(現:WDR交響楽団)が、ゾルターン・ペシュコの指揮で初演しています。
副題に4つのエピソードとあるように、4つの部分からなります。第1部はファ(F)の音からラ(A)の音を通って♯ソ(G sharp)の音へとゆるやかに遷移していく音楽です。第2部でもファ(F)の音を軸にして、ミ(E)の音と♭ソ(G flat)の音の間をウロウロします。第3部においては、♭ミ(E flat)の音から♯ファ(F sharp)の間をひたすら往来します。最後の第4部は♯ソの音と♯ラ(A sharp)の音の行き来を軸に据えながら、変ホ長調の主和音の構成音にも音を移動させる音楽になっております。メロディらしきメロディはほとんど出てきませんが、軸にする音のピッチを楽器間でずらしたり、倍音成分を鳴らしたり、突拍子もないサウンドを割り込ませたりすることで、夾雑な音の聴感上の豊かさを楽しませてくれます。
《プフハット》は、1986年に、《コンクス=オーム=パックス》と同じ日に、イェルク・ヴィッテンバッハ(Jürg Wyttenbach, 1935-)のタクトでフランクフルトのヘッセン放送のオーケストラと合唱団によって初演されました。
オーケストラと合唱のための作品ですが、本作品ではヴァイオリンとオーボエが省かれています。
作品には”Un éclat... et le ciel s'ouvrit!”(閃光…そして空が切り開かれた)という書き込みがあるとのこと。
ミの音を軸にして、レ(D)の音や♭ミの音を彷徨う作品ですが、4つの部分に分けられています。
最初はホルンの奏でるミの音に、合唱がひたすら呼吸音をかぶせます。次の部分ではオーケストラと合唱が爆発的な音で閃光を表し、さらに次の部分ではミの音の周辺を彷徨いながら、霧が晴れていく様を表現します。最後の部分ではパーカッションがひたすらトライアングルなどで金属的な音を奏で、雲が晴れたまばゆさを表現します。
《コンクス=オーム=パックス》も合唱つきのオーケストラ曲です。コンクスは古アッシリア語で、オームはサンスクリット語、パックスはラテン語とのこと。全て平和を意味する言葉だそうですが、シェルシによれば不変なるものの最初の働き、創造的な力、聖なる音節という、サウンドの3つの側面を明らかにしたものなのだとか。
3つの部分からなり、最初の部分ではド(C)の音を基本にしながら、様々な微分音をぶつけて音のうねりを作り出します。
さらに次の部分では、ファの音を基本にしながら、グリッサンドやポルタメントを多用して、一つのクライマックスを作り上げます。
最後の部分ではラの音を基本にして、合唱が聖なる音節としての「オーム」を繰り返します。シェルシは、バラバラに鳴っているオーケストラの音を、合唱の「オーム」という言葉で一つの方向性に収斂させていくことで、「平和」という概念の意味を音化しようとしたのかもしれません。
オーケストラのための4つの小品は、シェルシの作品の中でもとりわけよく知られた作品です。というのも、完成したその年のうちに、モーリス・ル・ルーがパリで初演したからです。
それぞれの小品について一つの音の線にこだわった作品であり、よく知られているシェルシの作風のプロトタイプといえそうです。
1曲目の小品は、オーケストラが一丸となってファの音を中心にして♭ラ(A flat)の音にまでにじり寄ります。
2曲目の小品は、シ(B)の音とド(C)の音の間を微妙に行き来する音楽です。
3曲目の小品は、♭ラの音を中心にしてラの音に行ったり戻ったりを繰り返します。
4曲目の小品は、ラの音と♭シ(B flat)の音を行き来する音楽です。
この作品は、音名で定められた音を上ずらせてみたり、管楽器の音の吹き込みを変化させたりすることで、独特のうねりを生み出しており、そのサウンドの多彩さを楽しむのが本作品のねらいと言えそうです。
《アナヒット》は、シェルシの書いたヴァイオリン協奏曲です。
「アナヒット」ギリシャ・ローマ神話ヴィーナスのエジプト版だそうですが、ヴィーナスに捧げる抒情詩として本作品は構想されました。1966年にアテネで演奏され、ドヴィ・エルリがヴァイオリン独奏を受け持ったとのこと。
シェルシらしく、伝統的なヴァイオリン協奏曲とは様相が全く異なり、ソリスティックな要素は全くありません。
♭シの音の辺りをうろつくオーケストラの上を、ヴァイオリン独奏がレの音の辺りをうろつく形でうつろなハーモニーを作り上げるという作品です。オーケストラもヴァイオリンも徐々に音程を上げて三和音を作ろうとしますが、その折り合いがつかないまま、音は減衰していきます。
《ウアクストゥム》は、1987年にケルンでハンス・ツェンダーによる指揮で、シェルシ臨席の下で行われたとのこと。「ウアクストゥム」は、本当は"Uaxuctùn"と綴るのが厳密らしいですが、シェルシは"Uaxutum"と綴っています。今のグァテマラにあったとされる、マヤ文明の都市のことを指し、政治的理由で消滅してしまったのだとか。
この神秘的なマヤ文明の都市に思いを馳せて作ったのが本作品ということになります。オンド・マルトノと声楽家たちの呼吸とを導入にし、いきなり12パートに分かれたコーラスが弾け出すあたりは圧巻です。パーカッションの荒々しさや、4人のソリストと合唱のやりとりの神秘性など、印象的な部分に事欠かない作品なのですが、そのうねるような音楽の展開は、かなりドラマティックなものです。
《フルクアリア》は、2枚目CDに収録された1959年作の4つの小品をより発展させる形で手掛けた作品。1986年にアムステルダムでアルトゥール・タマヨの指揮で初演されました。
4つの小品が比較的小人数編成のオーケストラを当て込んで書いたものなのに対し、この作品はフル・オーケストラ用に書いた最初の作品となります。この題名もサンスクリット語に由来するとのことで、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に着想があると考えられています。
大オーケストラを扱ったシェルシの本作品は、4つの小品で試した語法をさらに拡大し、さらに音色を厚塗りしているので、音色に凶暴性が加わり、さらにパーカッションの充実によって躍動感が増しています。
《ヒュムノス》は、そのタイトルをギリシャ語でいうところの「神話」の意味を持ちます。前述の《アイオーン》や《フルクアリア》と並んでシェルシのオーケストラ三部作の一つに数えられることもあります。
レの音を基本にして、ニ短調の和音を作ろうとしたり変ロ長調の和音に遷移しようとしたりする作品ですが、ヴァイオリンなど高音部が微分音を使って独特の響きを生みだしているのが面白いところです。
《チャクルム》は弦楽合奏のための作品。題名は「支点」という意味なのだとか。
弦楽四重奏の発展形として手掛けたこの作品では、部分的に15声部くらいにまで細分化されています。虫の羽音を思わせるようなトレモロの連続とトーン・クラスターの組み合わせで、圧倒的な音響世界の構築に成功した音楽です。
本CDは、《プフハット》や《コンクス=オーム=パックス》の初演を指揮したヴィッテンバッハが、クラクフ・ポーランド放送管弦楽団と合唱団を用いて録音しています。ヴィッテンバッハはスイスの人で、ベルン音楽大学でシャンドール・ヴェレシュ門下の作曲家でもあります。この一連の録音では、作曲家として先輩格のシェルシの作品を、ただの音のモニュメントに終わらせるのではなく、血の通ったエモーショナルな音楽として再生しようとしている点に妙味があります。《アイオーン》をはじめとする管弦楽作品の畳みかけるような楽器の積み重ねを、ただの珍妙な積み重ねに終わらせるのではなく、しっかりと緊張感を持続させており、これらの作品の名演奏としての存在感を、今後とも確保していくことでしょう。
カナダ人ヴァイオリニストのカルメン・フルニエ(Carmen Fournier, 1969-)が《アナヒット》のヴァイオリン独奏を担当していますが、ヴィッテンバッハのオーケストラを向こうに回して集中度の高い演奏を聴かせてくれています。
《ウアクスクトゥム》では、ソプラノ歌手としてイレーナ・ウルバンスカ(Irena Urbańska)とヤドヴィガ・ヤクビアク(Jadwiga Jakubiak)、テノール歌手としてヨーゼフ・ドヴォヤク(Josef Dwojak)とクシシュトフ・サフラン(Krzysztof Szafran)といったポーランドの歌手たちが出演していますが、フランス人作曲家のトリスタン・ミュライユ(Tristan Murail, 1947-)がオンド・マルトノ奏者として参加しております。ミュライユはオリヴィエ・メシアンの門下生として知られていますが、シェルシのアシスタントを務めていたこともあり、シェルシをよく知る人物の一人でもあります。
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