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1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
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◈Johannes Brahms: Violin Concerto in D major, op.77
Ruggiero Ricci (Vn)
Sinfonia of London / Norman del Mar
(Rec. 19 February & 21 May 1991, Walthamstow Town Hall, London)



17世紀から勃興してきた独奏楽器とオーケストラのための協奏曲(以下、独奏協奏曲)は、19世紀に入るまでに三楽章構成の形式を完成させてきました。以下、その形式について、僭越ながら説明してみようと思います。

伝統的な独奏協奏曲は、原則として3つの楽章から成ります。
まず最初の楽章は、ソナタ形式を踏襲した音楽を配置します。
ソナタ形式というのは、提示部、展開部、再現部の三つの部分を経て終結部に至る曲の形式です。
提示部で、曲の核となる2つ以上の主題を提示し、展開部で、提示した主題をモチーフに作曲者の作曲技術の粋を見せます。最後に、提示した主題を回想し、曲を閉じます。(主題提示の際には、転調を行うという約束がありますが、厳密な楽式を論じるのは、本記事の趣旨ではないので、割愛します。)
伝統的な独奏協奏曲の場合は、提示部に特徴があり、オーケストラが前説として主題を提示した後、独奏楽器がもう一度主題提示をします。
さらに、独奏者の腕の見せ場として、再現部から終結部に至る時に、カデンツァという、演奏者のアドリブ任せの部分を配置している点が、独奏協奏曲の特徴です。このため、協奏曲で扱われるソナタ形式は、「協奏風ソナタ形式」と呼ばれることもあります。

第2楽章では、変奏曲か三部形式の音楽を配置し、この中間部分はゆったりとした音楽にするのがしきたりです。
三部形式というのは、最初の部分で楽章の主要主題を提示し、次の部分で、提示した主題にコントラストをつける音楽を導入し、最後の部分で最初の主題を回想するという形です。単純に書けば、「A-B-A’」という形をとります。

第3楽章は、通常ロンド形式をとります。
ロンド形式は、主要主題の部分「A」で、いろんなエピソードを挟んでいく形式で、単純に表記すると、「A-B-A-C-A-D-A…」という形になります。
しかし、曲としての統一感を高めるために、「A-B-A-C-A-B-A」という形をとることもあれば、この形を簡略化して「A-B-A-C-A」という形にする場合もあります。
また、この楽章でも、最後の主要主題の再現を期して身近なカデンツァが置かれることがあります。

ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833-1897)のヴァイオリン協奏曲は、上記のような、伝統的な独奏協奏曲を踏襲して作られたものです。
ブラームス自身は、4楽章の交響曲に準じた協奏曲としてヴァイオリン協奏曲を構想しましたが、親友のヨーゼフ・ヨアヒム(Joseph Joachim, 1831-1907)がブラームスを説得し、伝統的な3楽章構成の作品になりました。
ブラームスが独奏協奏曲を作るころには、即興演奏としてのカデンツァの配置は衰退傾向にありましたがこの曲では、カデンツァを初演時の独奏者だったヨアヒムの手に委ねました。
ヨアヒムはヨアヒムで立派なカデンツァを楽譜に残し、これがこの曲のカデンツァのスタンダードとして多くの演奏者に使われました。
しかし、カデンツァがカデンツァである以上は、必ずしもヨアヒムの作品でなくても構わないということで、沢山の人が自前のカデンツァを作って演奏しています。

本CDは、イタリア系アメリカ人ヴァイオリニストのルッジェーロ・リッチ(Ruggiero Ricci, 1918-)がノーマン・デル・マー(Norman Del Mar, 1919-1994)の指揮するシンフォニア・オヴ・ロンドンと録音したものを収録しています。
このCDの面白いのは、第1楽章のカデンツァを、総勢16人分用意しているところにあります。
デフォルトのカデンツァはヨアヒムのものではなく、イタリア人ピアニストで音楽学者かつ作曲家だったフェルッチョ・ブゾーニ(Feruccio Busoni, 1866-1924)のもの。ブゾーニの作はかなり型破りで、前半でティンパニが乱入しているほか、後半ではオーケストラが曲の終結部に連結するように書き加えられています。
第3楽章まで演奏された後、付録として残り15人のカデンツァが取り付けられています。
その15人とは、スタンダードとして知られたヨアヒムのほか、エドムント・シンゲル(Edmund Singer, 1831-1912)、フーゴー・ヘールマン(Hugo Heermann, 1844-1935)、レオポルト・アウアー(Leopold Auer, 1845-1930)、ウジェーヌ・イザイ(Eugène Ysaÿe, 1828-1931)、フランティシェク・オンドルジーチェク(František Ondříček, 1859-1922)、フランツ・クナイゼル(Franz Kneisel, 1865-1926)、アンリ・マルトー(Henri Marteau, 1874-1934)、フリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler, 1875-1962)、ドナルド・フランシス・トーヴィー(Donald Francis Tovey, 1875-1940)、ヤン・クーベリック(Jan Kubelík, 1880-1940)、アドルフ・ブッシュ(Adolf Busch, 1891-1952)、ヤッシャ・ハイフェッツ(Jascha Heifetz, 1901-1987)、ナタン・ミルシテイン(Nathan Milstain, 1903-1989)、そしてリッチ本人です。
シンゲルは、生前はヨアヒムのライバルとして知られ、ヨアヒムの後を継いでヴァイマル宮廷管弦楽団のコンサート・マスターに就任した人です。
ドイツ人のヘールマンとハンガリー人のアウアーはヨアヒムの弟子で、特にアウアーは、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を貶して献呈されそこなったことで知られています。なお、アウアーは指導者としても優れ、ハイフェッツやミルシテインは、アウアーの門下生です。
イザイは、アンリ・ヴュータン直系の弟子で、ベルギーを代表する音楽家として知られた人。
オンドルジーチェクは、パリでランベール・マサールに学んだチェコのヴァイオリニストで、アントニーン・ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲の初演者として知られています。
クナイゼルは、ウィーンでヤコブ・グリュンとヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世に師事したルーマニアの人で、アメリカに渡って音楽芸術研究所(現:ジュリアード音楽院)の初代ヴァイオリン科教授を務めたことで知られています。クナイゼルと同門だったのが、かのクライスラーで、クライスラーのカデンツァは、ヨアヒムのカデンツァとともに、ヴァイオリニストたちに愛用されています。
クーベリック(クベリーク)は、チェコを代表するヴァイオリニストで、息子のラファエルは指揮者として活躍していました。
トーヴィーは、ヴァイオリニストではなく、イギリスの作曲家兼ピアニストです。音楽学者や批評家としても活躍しました。ブラームスのファンだったトーヴィーは、ブラームスの作品の楽曲分析も手掛けており、このカデンツァも、トーヴィーなりにブラームス作品への愛着を形にしたものです。
本CDでヴァイオリン独奏を務めるリッチは、アメリカのヴァイオリニストで、ニコロ・パガニーニの作品のスペシャリストとして知られた人です。本CDを演奏した時にはすでに73歳という高齢ですが、目立った演奏上の瑕疵も少なく、表現意欲の旺盛さを感じさせます。各種カデンツァでも、加齢による演奏技術の低下はさほど感じさせず、普段なかなか耳にすることのできないカデンツァの紹介としては十分な出来栄えでしょう。
指揮を務めるデル・マーは、元々ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のホルニストを務めていた人です。
コンスタント・ランバートに指揮法を学んだり、レイフ・ヴォーン=ウィリアムズに作曲を学んだりと、かなり多芸な人だったらしく、音楽学者としてリヒャルト・シュトラウスの評伝を書き上げるなど、八面六臂の活躍をしていました。
指揮者としてはドイツ音楽に適性を見せていたデル・マーですが、本演奏は、やや四面四角な印象。オーケストラの鳴りはいいものの、サウンドとしてやや縦割りすぎる気がします。

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