1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
◈Pierre Boulez: Sonatine
◈Oliver Messiaen: Le Merle noir
Philippe Bernold (Fl)
Alexandre Tharaud (Pf)
Alexandre Tharaud (Pf)
(Rec. January 2000, IRCAM, Salle modulable, Paris)
◈André Jolivet: Cinq IncantationsPhilippe Bernold (Fl)
(Rec. January 2000, IRCAM, Salle modulable, Paris)
◈Henri Dutilleux: SonatinePhilippe Bernold (Fl)
Alexandre Tharaud (Pf)
Alexandre Tharaud (Pf)
(Rec. January 2000, IRCAM, Salle modulable, Paris)
◈Edgar Varèse: Density 21.5Philippe Bernold (Fl)
(Rec. January 2000, IRCAM, Salle modulable, Paris)
「20世紀のフルートソロ曲集」と銘打ったアルバムですが、フランスの作曲家の作品に限られます。
最初に演奏されるのは、ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925-)のソナチネです。
このソナチネは、作曲家としてのブーレーズが最初に出版した作品でした。15分未満の単一楽章の作品ですが、ブーレーズによると、楽式論的には、アルノルト・シェーンベルクの室内交響曲第1番から着想を得、また込み入ったリズムなどについては、大先輩に当たるオリヴィエ・メシアン(Oliver Messiaen, 1908-1992)の影響が多少感じられます。シェーンベルクの作品は、本来4つからなる交響曲の構造を、単一楽章に鋳直したわけですが、ブーレーズも、その作法に則り、4つの楽章を構成する特徴的な要素を解体してちりばめることで、楽章ごとの区分を曖昧にすることに成功しています。また、ブーレーズは単にシェーンベルクのような十二音音楽の作法に飽き足らず、メシアンが複雑なリズムを労作したように、ブーレーズも一筋縄ではいかないリズムの配置で、作品の難易度を引き上げました。その作品の出来栄えには、後年のトータル・セリーの書法を予感させるものがあります。
ブーレーズ大先輩にして、パリ音楽院に於けるブーレーズの教官の一人だったメシアンは、自らを「リズムの発明家」と称するほどの人でしたが、鳥の鳴き声を採譜して音楽を作り上げるのも、彼のライフワークの一つでした。
《黒つぐみ(クロウタドリ)》は、1951年に、パリ音楽院のフルート科の試験課題曲として作った小品です。無類の鳥好きだったメシアンは、美声で知られるクロウタドリの囀りを採譜し、それを使ってこの曲を書き上げました。メシアンは、クロウタドリの鳴き声を大変気に入っていて、第二次世界大戦中にゲルリッツ強制収容所で書きあげた《世の終わりのための四重奏曲》においても、このクロウタドリの鳴き声の音列を用いています。
なにはともあれ、この《黒つぐみ》の作曲によって、鳥の鳴き声を採譜して音楽化するという、彼のライフ・ワークが本格的に始動することになりました。
アンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)は、エドガー・ヴァレーズ(Edgar Varèse, 1883-1965)の薫陶を受けた作曲家で、メシアンらとともに「若きフランス」という芸術団体を立ち上げたことで知られています。師のヴァレーズを介してシュールレアリズムの芸術家たちと交流するだけでなく、1931年に国際植民地博覧会に参加したり、1933年に北アフリカに旅行したりして異国の音楽を知り、音楽の呪術的側面に光を当てるような作品を書くようになりました。
本CDに収録された《5つの呪文》は、1936年に書きあげられた作品であり、異国の音楽から得られたショックの影響を生々しく残しています。無伴奏フルートの作品ではありますが、5つの「呪文」には、それぞれ、話し合いが円満になるような願掛けや、生まれてくる子が男であるようなおまじない、豊穣への願いや世界の万物と人間の調和、死者の魂の庇護を得られるようなおまじないの意味が込められています。19世紀までのフルートの奏法とは違った吹き方も試みられており、今日では、フルートの多様な表現を学ぶ教材として、フルート学習者に人気の音楽となっています。
アンリ・デュティユー(Henri Dutilleux, 1916-)は、アンリ・ビュッセル門下の作曲家です。メシアンからブーレーズに至るセリー音楽の系譜には属さず、調性音楽を全壊させないで半壊でとどめたところで曲を書き続けています。
ここで演奏されるソナチネは1943年に、パリ音楽院のフルート科の課題曲として書かれた作品です。一応無調音楽ではあるものの、ドビュッシーやアルベール・ルーセルの影響が感じられる仕上がりです。デュティユー自身は、この作品を受け狙いの作品として、あまり高く評価していませんが、パリ音楽院のコンクール課題曲として、フルーティストに必要な技巧をしっかり盛り込んだ作品ということで、今日でもフルーティストの試金石として、しばしば演奏されています。
本CDの最後に演奏されるのは、ヴァレーズの《密度21.5》(1936年作)です。"density"については、「質量」とか「比率」という訳語があてられることもあります。この曲は、フランスのフルーティストであるジョルジュ・バレルが、プラチナ製のフルートを作った時、そのプラチナ製のフルートのための作品を依頼することで生まれました。好奇心の旺盛なヴァレーズは、このバレルのフルートの性能をフル活用できるように、特殊奏法をふんだんに盛り込みました。結果として、耽美的なフルートのキャラクターは鳴りを潜め、攻撃的なキャラクターに塗り替えられています。
また、ドビュッシーの《シランクス》の冒頭の音列をあしらって、ドビュッシーの音楽に挑みかかるような姿勢も垣間見せています。
ヴァレーズは、この作品を「無題」として、依頼者のバレルに手渡しましたが、バレルがどうしてもタイトルが必要だというので、バレルの使う楽器のプラチナの含有率を、そのまま題名にしました。
バレルは、この曲が作られた年の2月16日に、このプラチナ製のフルートをカーネギー・ホールでお披露目し、その時にこの曲を初演しました。
本CDでフルートを演奏するのは、フィリップ・ベルノール(Philippe Bernold, 1960-)です。ピアノ伴奏は、アレクサンデル・タロー(Alexandre Tharaud, 1968-)が担当しています。
ベルノルトは、アラン・マリオンの門下生で、1987年のジャン=ピエール・ランパル国際フルート・コンクールで優勝した名手です。一頃リヨン国立歌劇場の首席奏者も務めていましたが、今日ではソリストとして活躍しています。
タローは、パリ音楽院で、ジェルメーヌ・ムーニエとテオドール・パラスキヴェスコに師事し、ニキタ・マガロフやクロード・エルフェの薫陶も受けた名手で、1987年のマリア・カナルス国際ピアノ・コンクールで第三位に入賞したほか、1989年のミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門で第2位を獲得するなどの実績を持っています。
レパートリーも広く、20世紀のフランスの鍵盤音楽から同世代の作曲家の作品までカバーしています。
自身でマスター・クラスも開いているベルノールの演奏は、まさに非の打ちどころのない模範演奏といった趣があり、ブーレーズのソナチネなど、極端な音の跳躍に臆することなく、まさに自由自在にフルートを操っています。
ジョリヴェやヴァレーズの作品も、快刀乱麻を断つがごとき吹きっぷりで、鮮やかな技巧の冴えを聴かせてくれます。
タローの伴奏は、しょっぱなのブーレーズの作品でこそ、持ち前の鋭敏さが陰っているものの、メシアンの作品では、クリスタルのように澄んだ音で独特の緊張感を醸し出し、ベルノールのフルートを刺激しています。
また、デュティユーのソナチネの緩慢な部分では、ベルノールと協力してほんのりとした抒情を作品から引き出しています。また、フィナーレでのフルートとピアノの丁々発止のやり取りには、聴き手をワクワクさせるようなスリルがあります。
これらのレパートリーは、フルートの学習者が手掛ける課題として知られていますが、ベルノールの演奏は、これからこれらの作品に取り組もうとする人たちを奮起させるだけの魅力を備えています。
最初に演奏されるのは、ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925-)のソナチネです。
このソナチネは、作曲家としてのブーレーズが最初に出版した作品でした。15分未満の単一楽章の作品ですが、ブーレーズによると、楽式論的には、アルノルト・シェーンベルクの室内交響曲第1番から着想を得、また込み入ったリズムなどについては、大先輩に当たるオリヴィエ・メシアン(Oliver Messiaen, 1908-1992)の影響が多少感じられます。シェーンベルクの作品は、本来4つからなる交響曲の構造を、単一楽章に鋳直したわけですが、ブーレーズも、その作法に則り、4つの楽章を構成する特徴的な要素を解体してちりばめることで、楽章ごとの区分を曖昧にすることに成功しています。また、ブーレーズは単にシェーンベルクのような十二音音楽の作法に飽き足らず、メシアンが複雑なリズムを労作したように、ブーレーズも一筋縄ではいかないリズムの配置で、作品の難易度を引き上げました。その作品の出来栄えには、後年のトータル・セリーの書法を予感させるものがあります。
ブーレーズ大先輩にして、パリ音楽院に於けるブーレーズの教官の一人だったメシアンは、自らを「リズムの発明家」と称するほどの人でしたが、鳥の鳴き声を採譜して音楽を作り上げるのも、彼のライフワークの一つでした。
《黒つぐみ(クロウタドリ)》は、1951年に、パリ音楽院のフルート科の試験課題曲として作った小品です。無類の鳥好きだったメシアンは、美声で知られるクロウタドリの囀りを採譜し、それを使ってこの曲を書き上げました。メシアンは、クロウタドリの鳴き声を大変気に入っていて、第二次世界大戦中にゲルリッツ強制収容所で書きあげた《世の終わりのための四重奏曲》においても、このクロウタドリの鳴き声の音列を用いています。
なにはともあれ、この《黒つぐみ》の作曲によって、鳥の鳴き声を採譜して音楽化するという、彼のライフ・ワークが本格的に始動することになりました。
アンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)は、エドガー・ヴァレーズ(Edgar Varèse, 1883-1965)の薫陶を受けた作曲家で、メシアンらとともに「若きフランス」という芸術団体を立ち上げたことで知られています。師のヴァレーズを介してシュールレアリズムの芸術家たちと交流するだけでなく、1931年に国際植民地博覧会に参加したり、1933年に北アフリカに旅行したりして異国の音楽を知り、音楽の呪術的側面に光を当てるような作品を書くようになりました。
本CDに収録された《5つの呪文》は、1936年に書きあげられた作品であり、異国の音楽から得られたショックの影響を生々しく残しています。無伴奏フルートの作品ではありますが、5つの「呪文」には、それぞれ、話し合いが円満になるような願掛けや、生まれてくる子が男であるようなおまじない、豊穣への願いや世界の万物と人間の調和、死者の魂の庇護を得られるようなおまじないの意味が込められています。19世紀までのフルートの奏法とは違った吹き方も試みられており、今日では、フルートの多様な表現を学ぶ教材として、フルート学習者に人気の音楽となっています。
アンリ・デュティユー(Henri Dutilleux, 1916-)は、アンリ・ビュッセル門下の作曲家です。メシアンからブーレーズに至るセリー音楽の系譜には属さず、調性音楽を全壊させないで半壊でとどめたところで曲を書き続けています。
ここで演奏されるソナチネは1943年に、パリ音楽院のフルート科の課題曲として書かれた作品です。一応無調音楽ではあるものの、ドビュッシーやアルベール・ルーセルの影響が感じられる仕上がりです。デュティユー自身は、この作品を受け狙いの作品として、あまり高く評価していませんが、パリ音楽院のコンクール課題曲として、フルーティストに必要な技巧をしっかり盛り込んだ作品ということで、今日でもフルーティストの試金石として、しばしば演奏されています。
本CDの最後に演奏されるのは、ヴァレーズの《密度21.5》(1936年作)です。"density"については、「質量」とか「比率」という訳語があてられることもあります。この曲は、フランスのフルーティストであるジョルジュ・バレルが、プラチナ製のフルートを作った時、そのプラチナ製のフルートのための作品を依頼することで生まれました。好奇心の旺盛なヴァレーズは、このバレルのフルートの性能をフル活用できるように、特殊奏法をふんだんに盛り込みました。結果として、耽美的なフルートのキャラクターは鳴りを潜め、攻撃的なキャラクターに塗り替えられています。
また、ドビュッシーの《シランクス》の冒頭の音列をあしらって、ドビュッシーの音楽に挑みかかるような姿勢も垣間見せています。
ヴァレーズは、この作品を「無題」として、依頼者のバレルに手渡しましたが、バレルがどうしてもタイトルが必要だというので、バレルの使う楽器のプラチナの含有率を、そのまま題名にしました。
バレルは、この曲が作られた年の2月16日に、このプラチナ製のフルートをカーネギー・ホールでお披露目し、その時にこの曲を初演しました。
本CDでフルートを演奏するのは、フィリップ・ベルノール(Philippe Bernold, 1960-)です。ピアノ伴奏は、アレクサンデル・タロー(Alexandre Tharaud, 1968-)が担当しています。
ベルノルトは、アラン・マリオンの門下生で、1987年のジャン=ピエール・ランパル国際フルート・コンクールで優勝した名手です。一頃リヨン国立歌劇場の首席奏者も務めていましたが、今日ではソリストとして活躍しています。
タローは、パリ音楽院で、ジェルメーヌ・ムーニエとテオドール・パラスキヴェスコに師事し、ニキタ・マガロフやクロード・エルフェの薫陶も受けた名手で、1987年のマリア・カナルス国際ピアノ・コンクールで第三位に入賞したほか、1989年のミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門で第2位を獲得するなどの実績を持っています。
レパートリーも広く、20世紀のフランスの鍵盤音楽から同世代の作曲家の作品までカバーしています。
自身でマスター・クラスも開いているベルノールの演奏は、まさに非の打ちどころのない模範演奏といった趣があり、ブーレーズのソナチネなど、極端な音の跳躍に臆することなく、まさに自由自在にフルートを操っています。
ジョリヴェやヴァレーズの作品も、快刀乱麻を断つがごとき吹きっぷりで、鮮やかな技巧の冴えを聴かせてくれます。
タローの伴奏は、しょっぱなのブーレーズの作品でこそ、持ち前の鋭敏さが陰っているものの、メシアンの作品では、クリスタルのように澄んだ音で独特の緊張感を醸し出し、ベルノールのフルートを刺激しています。
また、デュティユーのソナチネの緩慢な部分では、ベルノールと協力してほんのりとした抒情を作品から引き出しています。また、フィナーレでのフルートとピアノの丁々発止のやり取りには、聴き手をワクワクさせるようなスリルがあります。
これらのレパートリーは、フルートの学習者が手掛ける課題として知られていますが、ベルノールの演奏は、これからこれらの作品に取り組もうとする人たちを奮起させるだけの魅力を備えています。
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