1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
CD1:
◈Dmitri Kabalevsky: Violin Concerto in C major, op.48
Vanessa-Mae (Vn)
London Mozart Players / Anthony Inglis
(Rec. 31 October & 1 November 1990, Blackheath Concert Halls)
◈Pyotr Ilyich Tchaikovsky (arr.Christopher James): "Swan Lake" - Russian DanceVanessa-Mae (Vn)
New Belgian Chamber Orchestra / Nicholas Cleobury
(Rec. September 1991, Studio Steurbaut, Ghent)
◈Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, op.35Vanessa-Mae (Vn)
London Symphony Orchestra / Kees Bakels
(Rec. October 1991, No.1 Studio, Abbey Load, London)
CD2:
◈Fritz Kreisler (arr. Charles R. Roberts): Schöne Rosmarin
◈Fritz Kreisler (arr. Charles R. Roberts): Liebesleid
◈Fritz Kreisler (arr. Charles R. Roberts): Liebesfreud
Vanessa-Mae (Vn)
New Belgian Chamber Orchestra / Nicholas Cleobury
(Rec. September 1991, Studio Steurbaut, Ghent)
◈Marius Casadesus (attrib. Wolfgang Amadeus Mozart): Violin Concerto in D major "Adelaide"Vanessa-Mae (Vn)
London Mozart Players / Anthony Inglis
(Rec. 31 October & 1 November 1990, Blackheath Concert Halls)
◈Ludwig van Beethoven: Violin Concerto in D major, op.61Vanessa-Mae (Vn)
London Symphony Orchestra / Kees Bakels
(Rec. February 1991, No.1 Studio, Abbey Load, London)
CD3:
◈Edward Elgar (arr. Christopher James): Salut d' mamour
◈Johannes Brahms (arr. Christopher James): Lullaby, op.49-4
◈Johann Sebastian Bach (arr. August Wilhelmj): Air on the G strings
◈Richard Rodgers (arr. Christopher James): "The Sound of Music" - My favorite things
◈Michel Legrand (arr. Christopher James): Les parapluies de Cherbourg
◈Albert Hammond (arr. Christopher James): One Moment in Time
◈John Lennon & Paul McCartney (arr. Christopher James): Yellow Submarine
◈Traditional Tune (arr. Christopher James): Frère Jacques
◈Niccolò Paganini (arr. Fritz Kreisler & Christopher James): La Campanella
◈Sze-Du (arr. Christopher James): Chinese Folk Tune
◈Fritz Kreisler (arr. L. Artok): Tambourin chinois
◈Mario Castelnuovo-Tedesco (arr. Jacha Heifetz & Christopher James): Figaro
◈George Gershwin (arr. Jacha Heifetz & Christopher James): Summertime
Vanessa-Mae (Vn)
New Belgian Chamber Orchestra / Nicholas Cleobury
(Rec. September 1991, Studio Steurbaut, Ghent)
◈Pablo de Sarasate: Concert Fantasy on "Carmen", op25◈Henryk Wieniawski: Fantasy brillante on Gounod's "Faust", op.20
Vanessa-Mae (Vn)
London Mozart Players / Anthony Inglis
(Rec. 31 October & 1 November 1990, Blackheath Concert Halls)
ヴァネッサ=メイ(Vanessa-Mae)ことヴァネッサ=メイ・ヴァナコルン・ニコルソン(Vanessa-Mae Vanakorn Nicholson, 1978-)はシンガポール出身の人で、北京の中央音楽院で林耀基に師事した後、ロンドンの王立音楽院でフェリックス・アンドリエフスキーの下で学び、10歳でヴァイオリニストとしてロンドン・デビューを飾っています。今日ではフュージョン・ミュージシャンとして電子ヴァイオリンを駆使し、クラシック音楽とのコラボレーションで活動している彼女ですが、この3枚組のCDでは、そんな彼女の13歳ごろの録音が集められています。共演陣は、アンソニー・イングリス(Anthony Inglis, 1952-)の指揮するロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、キース・バケルス(Kees Bakels, 1945-)の指揮するロンドン交響楽団、ニコラス・クレオバリー(Nicholas Cleobury, 1950-)の指揮する新ベルギー室内管弦楽団の三種のコンビに分かれています。
イングリスはイギリスの指揮者で、ロンドンの王立音楽院でヴァーノン・ハンドリーに学んでいます。卒業後はウェスト・エンドでショーを行ったり、映画音楽に音楽スタッフとして加わったりしながらキャリアを重ね、1980年にはバーミンガム・ロイヤル・バレエやイングリッシュ・ナショナル・バレエなどで成功を収めて指揮者としての地歩を固めました。母国はもとより世界各国のオーケストラに客演しており、アンドリュー・ロイド・ウェッバーのミュージカルの上演や録音にも意欲的に取り組んでいますが、近年はロンドンのナショナル交響楽団の音楽監督を務めています。
バケルスはオランダ出身の指揮者です。アムステルダム音楽院でヴァイオリンと指揮法を学んだあと、イタリアのキジアーナ音楽院に留学したバケルスは、帰国後アムステルダム・フィルハーモニー管弦楽団の補助指揮者やオランダ室内管弦楽団への客演、さらにはボーンマス交響楽団の首席客演指揮者として実績を積んでいます。1998年にマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団を創設して鍛錬したことで、国際的に名を知られるようになりました。
クレオバリーはイギリスの指揮者ですが、元々は教会オルガニストで、ウスター大学でオルガンを修めたあとは、チチェスター大聖堂のオルガニストを1971年から1973年まで務めています。その後、指揮者に転向し、ミッド・ウェールズ・オペラの音楽監督、ジョン・アーミテージ・メモリアルの首席指揮者などを務め、1992年にはブリテン・シンフォニエッタを設立しています。
この3枚のCDのうち、ドミトリー・カバレフスキー(Dmitri Kabalevsky, 1904-1987)のヴァイオリン協奏曲と、マリウス・カサドシュ(Marius Casadesus, 1892-1981)のアデライーデ交響曲は、イングリスの指揮するロンドン・モーツァルト・プレイヤーズとの演奏です。
カバレフスキーは旧ソ連の作曲家で、社会主義リアリズム路線の上を器用に渡った人です。この曲も若者のための音楽という名目で1948年に作曲され、その年の10月29日にミハイル・テリアンの指揮するモスクワ音楽院の学生オーケストラの伴奏で初演され、その際にソリストを務めたのがイーゴリ・ベズロドニーでした。作品は、20分以内に演奏できる規模に纏められており、程々に難しいテクニックが盛り込まれています。この作品はダヴィット・オイストラフが大層気に入り、作曲者自身の指揮で録音しています。
ここに聴くヴァネッサ=メイの演奏は、第1楽章の出だしから音程もイントネーションも不安定で、第2楽章の歌心も引き出し損ねています。オイストラフに比べると不満の残る演奏水準です。イングリスのサポートは、ダイナミックでノリが良く、完全にヴァネッサ=メイを食ってしまっています。
アデライーデ協奏曲は、1933年に発表された当初、フランスの王女、マリー・アデライーデのために、1766年にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した作品として扱われた作品です。この作品は、アルフレート・アインシュタインらからモーツァルトの作品ではないのではないかという疑いを向けられており、1977年に作曲者自身が真相を告白しています。
作曲者のマリウス・カサドシュは、カタルーニャ出身でフランスに帰化したアマチュア音楽家のルイス・カサドシュの末っ子として生まれました。カサドシュ家は9人の子供がおり、長男フランシスはシャンソン・ド・パリの作曲家、長女ロゼと三女セシールはピアノ教師、二男ロベール=ギヨームは「ロベール・カーザ」と称して舞台歌手になり、三男のマルセルはチェリスト、四女レジーヌは作曲家兼チェンバリストになりました。(マルセルの姉にあたる二女ジャンヌは音楽活動をせず。)ちなみに、ピアニストとして知られたロベール・カサドシュは、「ロベール・カーザ」の子です。
1901年に作曲家のカミーユ・サン=サーンスらと古楽器協会を設立し、兄ヘンリらと18世紀以前の作曲家の作品の発掘&紹介に力を入れたマリウスでしたが、この兄弟で作曲家の名前を騙って楽譜を出版し、アデライーデ協奏曲も、そうした贋作の一環として制作されました。こうした来歴ゆえに、偽作確定後はあまり演奏・録音が為されませんが、ヴァネッサ=メイの録音は、そういう意味では貴重な録音です。
10代のヴァネッサ=メイの演奏は、楽譜通りの音は漏らさずに弾いていますが、細かいところで音程がラフになるので雑な印象になります。また、抑揚をつけてオーケストラとコミュニケーションをとるだけの余裕がなく、オーケストラの至れり尽くせりのサポートが却ってソリストの音楽的語彙の少なさを曝け出してしまっています。カデンツァも自作を弾いているとのことですが、往年のイェフディ・メニューインの録音で用いたパウル・ヒンデミット作とされるカデンツァのほうが充実しています。
パブロ・デ・サラサーテ(Pablo de Sarasate, 1844-1908)のカルメン幻想曲(ジノ・フランチェスカッティ校訂版?)とヘンリク・ヴィエニャフスキ(Henryk Wieniawski, 1835-1880)のファウスト幻想曲は、どちらも生前ヴァイオリニストとして大活躍した人の手による作品なだけに、ヴァイオリンの名技性が発揮される作品です。
カルメン幻想曲は、ジョルジュ・ビゼー(Georges Bizet, 1838-1875)の《カルメン》によるパラフレーズですが、強い自己顕示性を持って奔放なカルメンよろしく超絶技巧を演じ分けなければいけません。ヴァネッサ=メイの演奏は、スタッカートで弾かなければならない部分の切れが悪く、スライスしそこなった沢庵漬けみたいになってしまっています。作品の要求する思い切りの良さに欠けるため、カルメンの顕示性を表出するには至っていません。このため、イングリスの指揮するオーケストラの奮闘に見合うだけの演奏効果が得られていません。このことから、この作品はソリストが絶対的な軸として演奏の出来栄えを大きく左右することがわかります。
ファウスト幻想曲のほうは、シャルル・グノー(Charles Gounod, 1818-1893)の《ファウスト》を基にしており、まるで教会音楽とドラマを混ぜ合わせたような重厚さをそのままにパラフレーズにしています。技巧的な個所はふんだんに盛り込まれているものの、それを見せびらかすのではなく、伴奏といかに調和するかにウェイトが置かれており、オーケストラ伴奏であれば、その伴奏の雄弁さが演奏の出来栄えの大きな因子になります。こちらはイングリスの指揮するオーケストラが雄弁で、音楽の流れのイニシアチブをしっかり取っていて、聴き応えがあります。ヴァネッサ=メイの独奏も、やや頼りないところがあるとはいえ、メロディを美しく歌い上げているので、共感しやすい演奏に仕上がっています。
ヴァネッサ=メイがバケルスの指揮するロンドン交響楽団と共演しているのは、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky, 1840-1893)のヴァイオリン協奏曲と、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770-1827)のニ長調のヴァイオリン協奏曲です。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、アドルフ・ブロドスキーの手で1881年12月4日にウィーンで初演された作品です。本来はロシア国内でレオポルト・アウアーの独奏で初演されるはずでしたが、アウアーが「演奏不可能」として拒否してしまいました。また、ウィーンで行われた初演で指揮を執ったハンス・リヒターが酩酊状態で指揮したため、大失敗に終わり、エドゥアルト・ハンスリックから酷評されてしまいました。しかし、ブロドスキーは作品の価値を信じて疑わず、ことあるごとにこの曲を演目にかけ、次第に評価されるようになり、今日ではヴァイオリン協奏曲の名作のひとつに数えられています。
しかし、ここでのヴァネッサ=メイの演奏は、ブロドスキーの執念を思わせるような演奏ではなく、小さくまとまってしまっています。ヴァネッサ=メイの演奏でなければ味わえない独特さを表出するには、13歳ではまだ力不足だったのかもしれません。バケルスのサポートも、彼女の演奏のスケールに合わせ、常套的な演奏に終始しています。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、フランツ・クレメントを助言者にして書き進めていった1806年の作品。冒頭のティンパニによる拍節連打がユニークな作品ですが、ヴァイオリンを伸びやかに歌わせることに重点を置き、ベートーヴェンの作品の中でもメロディの美しい作品として高く評価されています。ただ、1806年12月23日にアン・デア・ウィーン劇場でフランツ・クレメントの独奏で初演されたこの作品は、クレメントの余興のほうが評判になる程の失敗で、ヨーゼフ・ヨアヒムが1844年に演奏してからようやく再評価されるようになりました。
ヴァネッサ=メイの録音は、ヨアヒムと同年代の録音ということになりますが、こちらは技術的によくこなれた演奏です。所々で間合いの取り方の不自然さがあり、スケール感を膨らませるようなところまでは行ってませんが、第1楽章では初々しさを武器に溌剌とした演奏に仕上げています。第2楽章は初々しさだけではカバーしきれず、第3楽章ではボウイングがあまり弾まず、大人しい演奏に終わってしまっています。ロンドン交響楽団の伴奏は、あまりソリストに仕掛けるようなことはせず、音楽の流れがスムーズにいくように常識的な範囲で手慣れた演奏を聴かせます。バケルスはオランダの指揮者でアムステルダム音楽院やイタリアのキジアーナ音楽院で指揮法を学び、アムステルダム・フィルハーモニー管弦楽団やオランダ室内管弦楽団などの指揮台に立ち、1998年からマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団の初代首席指揮者を務めていました。本録音時は世界中のオーケストラへの客演で実績を作っていた時代で、この録音も、そうした修行の一環なのでしょう。
レオバリーの指揮する新ベルギー室内管弦楽団と共演しているのは、雑多なヴァイオリンとオーケストラのための変曲集です。その内訳は以下の通り。
▤ ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー: バレエ音楽《白鳥の湖》から〈ロシアの踊り〉
▤ フリッツ・クライスラー: 美しきロスマリン
▤ フリッツ・クライスラー: 愛の悲しみ
▤ フリッツ・クライスラー: 愛の喜び
▤ エドワード・エルガー: 愛の挨拶
▤ ヨハネス・ブラームス: 子守歌
▤ ヨハン・ゼバスティアン・バッハ: G線上のアリア
▤ リチャード・ロジャーズ: ミュージカル《サウンド・オヴ・ミュージック》から〈私の好きなこと〉
▤ ミシェル・ルグラン:シェルブールの雨傘
▤ アルバート・ハモンド: ワン・モメント・イン・タイム
▤ ジョン・レノン&ポール・マッカートニー: イエロー・サブマリン
▤ ニコロ・パガニーニ: ラ・カンパネラ
▤ シェ・ドゥ: 中国の民謡
▤ フリッツ・クライスラー: 中国の太鼓
▤ マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ: フィガロ
▤ ジョージ・ガーシュウィン: 《ポーギーとベス》より〈サマー・タイム〉
伴奏指揮のクレオバリーは、オルガニストから指揮者に転向し、ミッド・ウェールズ・オペラの音楽監督やブリテン・シンフォニエッタの創立指揮者等を務めた人です。
ビートルズの《イエロー・サブマリン》や《サウンド・オヴ・ミュージック》の音楽など、ジャンルに囚われない多彩な演目がセールス・ポイントだったようですが、ヴァイオリニストとしての表現力不足が足を引っ張り、音楽的にしっくりくるのは『シェルブールの雨傘』の音楽くらいに留まります。G線上のアリアなど、クレオバリーの伴奏の美しさと、ヴァネッサ=メイの美質が異なるので、違和感のほうが強いかもしれません。
イングリスはイギリスの指揮者で、ロンドンの王立音楽院でヴァーノン・ハンドリーに学んでいます。卒業後はウェスト・エンドでショーを行ったり、映画音楽に音楽スタッフとして加わったりしながらキャリアを重ね、1980年にはバーミンガム・ロイヤル・バレエやイングリッシュ・ナショナル・バレエなどで成功を収めて指揮者としての地歩を固めました。母国はもとより世界各国のオーケストラに客演しており、アンドリュー・ロイド・ウェッバーのミュージカルの上演や録音にも意欲的に取り組んでいますが、近年はロンドンのナショナル交響楽団の音楽監督を務めています。
バケルスはオランダ出身の指揮者です。アムステルダム音楽院でヴァイオリンと指揮法を学んだあと、イタリアのキジアーナ音楽院に留学したバケルスは、帰国後アムステルダム・フィルハーモニー管弦楽団の補助指揮者やオランダ室内管弦楽団への客演、さらにはボーンマス交響楽団の首席客演指揮者として実績を積んでいます。1998年にマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団を創設して鍛錬したことで、国際的に名を知られるようになりました。
クレオバリーはイギリスの指揮者ですが、元々は教会オルガニストで、ウスター大学でオルガンを修めたあとは、チチェスター大聖堂のオルガニストを1971年から1973年まで務めています。その後、指揮者に転向し、ミッド・ウェールズ・オペラの音楽監督、ジョン・アーミテージ・メモリアルの首席指揮者などを務め、1992年にはブリテン・シンフォニエッタを設立しています。
この3枚のCDのうち、ドミトリー・カバレフスキー(Dmitri Kabalevsky, 1904-1987)のヴァイオリン協奏曲と、マリウス・カサドシュ(Marius Casadesus, 1892-1981)のアデライーデ交響曲は、イングリスの指揮するロンドン・モーツァルト・プレイヤーズとの演奏です。
カバレフスキーは旧ソ連の作曲家で、社会主義リアリズム路線の上を器用に渡った人です。この曲も若者のための音楽という名目で1948年に作曲され、その年の10月29日にミハイル・テリアンの指揮するモスクワ音楽院の学生オーケストラの伴奏で初演され、その際にソリストを務めたのがイーゴリ・ベズロドニーでした。作品は、20分以内に演奏できる規模に纏められており、程々に難しいテクニックが盛り込まれています。この作品はダヴィット・オイストラフが大層気に入り、作曲者自身の指揮で録音しています。
ここに聴くヴァネッサ=メイの演奏は、第1楽章の出だしから音程もイントネーションも不安定で、第2楽章の歌心も引き出し損ねています。オイストラフに比べると不満の残る演奏水準です。イングリスのサポートは、ダイナミックでノリが良く、完全にヴァネッサ=メイを食ってしまっています。
アデライーデ協奏曲は、1933年に発表された当初、フランスの王女、マリー・アデライーデのために、1766年にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した作品として扱われた作品です。この作品は、アルフレート・アインシュタインらからモーツァルトの作品ではないのではないかという疑いを向けられており、1977年に作曲者自身が真相を告白しています。
作曲者のマリウス・カサドシュは、カタルーニャ出身でフランスに帰化したアマチュア音楽家のルイス・カサドシュの末っ子として生まれました。カサドシュ家は9人の子供がおり、長男フランシスはシャンソン・ド・パリの作曲家、長女ロゼと三女セシールはピアノ教師、二男ロベール=ギヨームは「ロベール・カーザ」と称して舞台歌手になり、三男のマルセルはチェリスト、四女レジーヌは作曲家兼チェンバリストになりました。(マルセルの姉にあたる二女ジャンヌは音楽活動をせず。)ちなみに、ピアニストとして知られたロベール・カサドシュは、「ロベール・カーザ」の子です。
1901年に作曲家のカミーユ・サン=サーンスらと古楽器協会を設立し、兄ヘンリらと18世紀以前の作曲家の作品の発掘&紹介に力を入れたマリウスでしたが、この兄弟で作曲家の名前を騙って楽譜を出版し、アデライーデ協奏曲も、そうした贋作の一環として制作されました。こうした来歴ゆえに、偽作確定後はあまり演奏・録音が為されませんが、ヴァネッサ=メイの録音は、そういう意味では貴重な録音です。
10代のヴァネッサ=メイの演奏は、楽譜通りの音は漏らさずに弾いていますが、細かいところで音程がラフになるので雑な印象になります。また、抑揚をつけてオーケストラとコミュニケーションをとるだけの余裕がなく、オーケストラの至れり尽くせりのサポートが却ってソリストの音楽的語彙の少なさを曝け出してしまっています。カデンツァも自作を弾いているとのことですが、往年のイェフディ・メニューインの録音で用いたパウル・ヒンデミット作とされるカデンツァのほうが充実しています。
パブロ・デ・サラサーテ(Pablo de Sarasate, 1844-1908)のカルメン幻想曲(ジノ・フランチェスカッティ校訂版?)とヘンリク・ヴィエニャフスキ(Henryk Wieniawski, 1835-1880)のファウスト幻想曲は、どちらも生前ヴァイオリニストとして大活躍した人の手による作品なだけに、ヴァイオリンの名技性が発揮される作品です。
カルメン幻想曲は、ジョルジュ・ビゼー(Georges Bizet, 1838-1875)の《カルメン》によるパラフレーズですが、強い自己顕示性を持って奔放なカルメンよろしく超絶技巧を演じ分けなければいけません。ヴァネッサ=メイの演奏は、スタッカートで弾かなければならない部分の切れが悪く、スライスしそこなった沢庵漬けみたいになってしまっています。作品の要求する思い切りの良さに欠けるため、カルメンの顕示性を表出するには至っていません。このため、イングリスの指揮するオーケストラの奮闘に見合うだけの演奏効果が得られていません。このことから、この作品はソリストが絶対的な軸として演奏の出来栄えを大きく左右することがわかります。
ファウスト幻想曲のほうは、シャルル・グノー(Charles Gounod, 1818-1893)の《ファウスト》を基にしており、まるで教会音楽とドラマを混ぜ合わせたような重厚さをそのままにパラフレーズにしています。技巧的な個所はふんだんに盛り込まれているものの、それを見せびらかすのではなく、伴奏といかに調和するかにウェイトが置かれており、オーケストラ伴奏であれば、その伴奏の雄弁さが演奏の出来栄えの大きな因子になります。こちらはイングリスの指揮するオーケストラが雄弁で、音楽の流れのイニシアチブをしっかり取っていて、聴き応えがあります。ヴァネッサ=メイの独奏も、やや頼りないところがあるとはいえ、メロディを美しく歌い上げているので、共感しやすい演奏に仕上がっています。
ヴァネッサ=メイがバケルスの指揮するロンドン交響楽団と共演しているのは、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky, 1840-1893)のヴァイオリン協奏曲と、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770-1827)のニ長調のヴァイオリン協奏曲です。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、アドルフ・ブロドスキーの手で1881年12月4日にウィーンで初演された作品です。本来はロシア国内でレオポルト・アウアーの独奏で初演されるはずでしたが、アウアーが「演奏不可能」として拒否してしまいました。また、ウィーンで行われた初演で指揮を執ったハンス・リヒターが酩酊状態で指揮したため、大失敗に終わり、エドゥアルト・ハンスリックから酷評されてしまいました。しかし、ブロドスキーは作品の価値を信じて疑わず、ことあるごとにこの曲を演目にかけ、次第に評価されるようになり、今日ではヴァイオリン協奏曲の名作のひとつに数えられています。
しかし、ここでのヴァネッサ=メイの演奏は、ブロドスキーの執念を思わせるような演奏ではなく、小さくまとまってしまっています。ヴァネッサ=メイの演奏でなければ味わえない独特さを表出するには、13歳ではまだ力不足だったのかもしれません。バケルスのサポートも、彼女の演奏のスケールに合わせ、常套的な演奏に終始しています。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、フランツ・クレメントを助言者にして書き進めていった1806年の作品。冒頭のティンパニによる拍節連打がユニークな作品ですが、ヴァイオリンを伸びやかに歌わせることに重点を置き、ベートーヴェンの作品の中でもメロディの美しい作品として高く評価されています。ただ、1806年12月23日にアン・デア・ウィーン劇場でフランツ・クレメントの独奏で初演されたこの作品は、クレメントの余興のほうが評判になる程の失敗で、ヨーゼフ・ヨアヒムが1844年に演奏してからようやく再評価されるようになりました。
ヴァネッサ=メイの録音は、ヨアヒムと同年代の録音ということになりますが、こちらは技術的によくこなれた演奏です。所々で間合いの取り方の不自然さがあり、スケール感を膨らませるようなところまでは行ってませんが、第1楽章では初々しさを武器に溌剌とした演奏に仕上げています。第2楽章は初々しさだけではカバーしきれず、第3楽章ではボウイングがあまり弾まず、大人しい演奏に終わってしまっています。ロンドン交響楽団の伴奏は、あまりソリストに仕掛けるようなことはせず、音楽の流れがスムーズにいくように常識的な範囲で手慣れた演奏を聴かせます。バケルスはオランダの指揮者でアムステルダム音楽院やイタリアのキジアーナ音楽院で指揮法を学び、アムステルダム・フィルハーモニー管弦楽団やオランダ室内管弦楽団などの指揮台に立ち、1998年からマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団の初代首席指揮者を務めていました。本録音時は世界中のオーケストラへの客演で実績を作っていた時代で、この録音も、そうした修行の一環なのでしょう。
レオバリーの指揮する新ベルギー室内管弦楽団と共演しているのは、雑多なヴァイオリンとオーケストラのための変曲集です。その内訳は以下の通り。
▤ ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー: バレエ音楽《白鳥の湖》から〈ロシアの踊り〉
▤ フリッツ・クライスラー: 美しきロスマリン
▤ フリッツ・クライスラー: 愛の悲しみ
▤ フリッツ・クライスラー: 愛の喜び
▤ エドワード・エルガー: 愛の挨拶
▤ ヨハネス・ブラームス: 子守歌
▤ ヨハン・ゼバスティアン・バッハ: G線上のアリア
▤ リチャード・ロジャーズ: ミュージカル《サウンド・オヴ・ミュージック》から〈私の好きなこと〉
▤ ミシェル・ルグラン:シェルブールの雨傘
▤ アルバート・ハモンド: ワン・モメント・イン・タイム
▤ ジョン・レノン&ポール・マッカートニー: イエロー・サブマリン
▤ ニコロ・パガニーニ: ラ・カンパネラ
▤ シェ・ドゥ: 中国の民謡
▤ フリッツ・クライスラー: 中国の太鼓
▤ マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ: フィガロ
▤ ジョージ・ガーシュウィン: 《ポーギーとベス》より〈サマー・タイム〉
伴奏指揮のクレオバリーは、オルガニストから指揮者に転向し、ミッド・ウェールズ・オペラの音楽監督やブリテン・シンフォニエッタの創立指揮者等を務めた人です。
ビートルズの《イエロー・サブマリン》や《サウンド・オヴ・ミュージック》の音楽など、ジャンルに囚われない多彩な演目がセールス・ポイントだったようですが、ヴァイオリニストとしての表現力不足が足を引っ張り、音楽的にしっくりくるのは『シェルブールの雨傘』の音楽くらいに留まります。G線上のアリアなど、クレオバリーの伴奏の美しさと、ヴァネッサ=メイの美質が異なるので、違和感のほうが強いかもしれません。
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