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1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
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◈ニコラス・スロニムスキー 編 伊藤 制子 他 訳『名曲悪口事典』 音楽之友社、2008年。

ニコラス・スロニムスキー(Nicolas Slonimsky, 1894-1995)が1953年に発表した"Lexicon of Musical Invective"の翻訳版です。本版は、2000年に改版されたものを使っているみたいです。
スロニムスキーは、作曲家で文筆家、音楽学者でもあるというマルチなアーティストで、指揮者としてもエドガー・ヴァレーズの《イオニザシオン》の世界初録音を残しています。

スロニムスキーは、音楽学的な興味から、こうした事典を編み上げており、事典に掲げた批評を例にとって、序文で様々な角度から批評とはどういうものであったかというのを分析しています。例えば、作品と作曲家の容貌を結びつけて、作品と人格攻撃を両立させる方法や、批評家が苦手とする数学的知識を自分の趣味による嫌悪のメルクマールにして作品をこき下ろす方法、はたまた作品を排泄物になぞらえて貶める方法等々・・・。
こうした作品にたいする冷淡な態度は、スロニムスキー曰く、「未知なるものへの拒否反応」なのです。

この「未知なるものへの拒否反応」について、少し考えてみたいと思います。
我々は、「名曲」を「名曲」として受容していますが、それが発表された当初は、「名曲」かどうかもわからないものでした。
そうした得体のしれない馬の骨のような曲を、果たして全ての人がすんなりと「名曲」として受け入れることが出来たかというと、そうではなかったという事実を、この悪口事典が示してくれています。
未知なるものとは、従来の伝統から逸脱した斬新さです。こうした伝統からの逸脱は、伝統墨守の傾向からすれば、得体のしれない破壊者に他なりません。自分たちの平穏を脅かす破壊者であれば、どうにか追い払わなければなりません。事典に載せられた悪評は、すなわち、得体のしれない破壊者を追い払おうとする、当時の人たちの努力でもあります。
こうした、破壊者を追い払おうとする昔の人の努力は、その破壊者たちが有意義な革新者と見なされている今日において、かなり的外れで滑稽なものに映ることでしょう。しかし、そうした昔の人たちの拒否反応にも、滑稽なりの理想とする美があったことは確かなことです。
クラシック音楽の名曲は、往々にして、殿堂入りの名曲です。しかし、そうした殿堂入りの名曲に憚ることなくダメだしをする、当時の批評家たちの「悪評」は、その当時の美、あるいは、その評者の信奉した美の裏返しでもあり、クラシック音楽の作曲家たちが生きた時代の息吹を知る一つの手がかりになります。
その点において、この本は非常に興味深い本なのです。

しかし、スロニムスキーは、19世紀までの作曲家にとどまらず、アーロン・コープランドやロイ・ハリスといった、スロニムスキーの後輩格の作曲家の悪評も載せています。いつの世も、「未知なるもの」はあり、それに「拒否反応」を起こす人がいるということでしょうか。

この事典には採用されない批評の存在も、実は忘れてはいけないものではないかと、私は考えます。
例を挙げるならば、いわゆる「称賛」の批評です。
いわゆる「名曲」が、異端視された時代、それを擁護した批評は、往々にして、後世では「先見の明があった」などといわれがちですが、ひょっとすると、現代においても、後世に「先見の明があった」と言われたいがために、現代の作曲家の太鼓持ちをする人もいるのではないか、と思うことがあります。
もうひとつ採用されない例を挙げるならば、後世において忘れられてしまった作品に対する悪評です。
後世において忘れられてしまった作品をこき下ろすことで、これまた、「くだらない作品をくだらないと断じた、的を射た評論」といわれるかもしれません。今日において、こき下ろす人たちの中には、「彼の毒舌は的を射た評論」というアリバイを作る目的でせっせとこき下ろす人もいるのかもしれません。
(類型的に、忘れられてしまった作品の称賛評なんてものも、この事典に採用されない評として取り上げることが出来ますが、それはそれで面白いかもしれません。)

スロニムスキーは、この悪口事典の序文で、悪口の批評を書いた人たちの過ちについて、「彼らの唯一の欠点は、美と完璧さへのゆるぎない理想と、自身の生来の音楽の聴き方を混同したことである。」と指摘しております。しかし、こういう過ちは、それが豪快な過ちであれ、後世の人々の褒め言葉を当てにしてなされるおべっかのような称賛やこき下ろしよりは、事典として編纂するに値するのでしょう。

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