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1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
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Arnold Schoenberg: Three Piano Pieces, op.11
Arnold Schoenberg: Six Little Piano Pieces, op.19
Arnold Schoenberg: Piano Piece, op. 33a
Arnold Schoenberg: Piano Piece, op. 33b
Arnold Schoenberg: Five Piano Pieces, op.23
Arnold Schoenberg: Suite for Piano, op.25
Paul Jacobs (Pf.)
(Rec. 1975)









メロディやハーモニーを形成している音が、ある一つの音を中心として統一的にまとまりを形成している場合、その中心音を主音といい、その音組織によってつくられる音楽を、西洋の音楽では調性音楽といいます。
この調性音楽は19世紀末までに伝統的に極められましたが、20世紀に入ると、この伝統的な音組織の方法にとらわれない、新しい音組織の形成方法が探求されるようになりました。
こうした探求の中で、無調音楽が生まれ、その無調音楽を作り上げる方法として、十二音音楽あるいは十二音技法と呼ばれる方法が体系化されることになりました。
この十二音技法では、調性音楽で用いられた主音という概念を排除し、音楽で使われる平均律の一オクターブ内にある12の音を均等に使うことを目指します。そのため、12の音を均等に使った基本音列(セリー)をつくりだし、その音列の音程関係をそのままに全ての音の高さを上下させたり(「移高」といいます)、音列を終わりから逆に読んだり(「逆行」といいます)、鏡に写したように音程関係をあべこべにしたり(「反行」といいます)、それぞれの音列制作の作法を組み合わせたりします。こうして出来上がった様々な音列を加工して組み合わせることで、調性音楽とは違った音楽をシステマティックに作ることが出来るようになります。
この十二音技法を足がかりにして、音高だけでなく、音の長さや音色、音の強弱など、音にまつわる様々な要素をパラメータ化して組み合わせるようになりました。こうした様々なパラメータの組み合わせによる作曲は「トータル・セリエリズム」といわれ、20世紀の作曲技法として持て囃されるようになりました。

こうした調性音楽からトータル・セリエリズムへの転換に大きく関わったのが、アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schoenberg, 1874-1951)でした。
シェーンベルクはウィーン出身の作曲家で、ヨーロッパにいた頃は名前を"Schönberg"と綴っていましたが、第二次世界大戦でアメリカに亡命した時に現行の綴りに改めたという経緯があります。
幼いころから音楽に親しみ、独学でチェロを習得したシェーンベルクは、当初ヨハネス・ブラームスの音楽に心酔していました。しかしアレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーの下で音楽理論を学んだときにリヒャルト・ヴァーグナーの音楽を知り、調性音楽の表現の極致を究めるようになりました。
しかし、調性音楽を究めるうちに無調音楽への志向を強めるようになり、1908年に歌曲集《架空庭園の書》で無調音楽の作品を完成させました。
その後、シェーンベルクの弟子のアントン・ウェーベルンが1914年に十二音音楽のはしりともいえるチェロ曲の作曲に成功し、1916年にはロシア人作曲家のニコライ・オブーホフがピアノ曲で十二音音楽のような作品を作りました。さらに1918年にはウィーンに住んでいた音楽理論家兼作曲家のヨーゼフ・マティアス・ハウアーが「トローペ」と称する十二音音楽の理論を創案。シェーンベルクは、そんなハウアーの理論を参考に、1920年代前半に先に書いた十二音技法を作り上げました。
なお、シェーンベルクはハウアーを十二音技法開発の協力者として遇しようとしましたが、ハウアーが自分の理論に固執したため、結局物別れに終わっています。

本CDに収録されたシェーンベルクのピアノ曲全集は、その作品数こそ少ないものの、無調音楽から十二音技法を生み出すまでのシェーンベルクの作風の進化の行程を示してくれます。
op.11のピアノ小品集は1909年の作品で、1910年1月14日にウィーンのエールバー・ザールに於いてエッタ・ヴェルンドルフのピアノ演奏で初演されました。調性音楽から無調音楽へと作風を変化させていた時期の作品なので、未だ調性音楽を思わせる所作は残っていますが、主音を軸にした音組織の構築とは違った方法で音楽が組み上げられています。
op.19はのピアノ小品集は1911年の作品で、1912年2月4日にベルリンのハルモニウム・ザールに於いて、ルイ・クロッソンのピアノ演奏で初演されました。op.11の傾向をより先鋭化した内容で、10小節にも満たない、箴言のように微小な作品が多くを占めます。繰り出される和音の一つ一つは美しく響くものの、伝統的な和声連結をとことん拒むことで、無調音楽としての一つの完成形を示しています。
op.23の小品集は、1920年から1923年までかけて完成させたシェーンベルクの労作です。5曲のうちの第1曲目と第2曲目は1920年10月9日のウィーンで開かれた私的演奏協会に於いてエドゥアルト・シュトイアーマンの手によりお披露目されましたが、全曲がシュトイアーマンの手で初演されたのは1923年秋ごろのハンブルクに於いてでした。ここでは不完全ながら音列操作を用いており、十二音技法の試行錯誤の跡が見えます。終曲の〈ワルツ〉で漸く十二音全部を使った音列で音楽が形作られました。
op.25の組曲は、op.23と並行して作曲が進められた作品で、1924年2月25日にウィーン・コンツェルトハウスのモーツァルト・ザールでシュトイアーマンが初演しています。18世紀以前の組曲のスタイル―舞曲の詰め合わせ―を踏襲しながら、その内実を十二音技法で満たすのが、この組曲の意匠です。この作品に於いて、伝統的な音楽のスタイルを十二音音楽で鋳直すことに成功しました。
op.33aのピアノ小品は1928年から翌年にかけて手掛けられた作品で、op.33bのピアノ小品は1931年の作品です。op.33aのほうはエルゼ・C・クラウスの手によりベルリンで1931年1月30日にお披露目され、op.33bのほうはダグラス・トンプソンの手により1934年1月11日にサンフランシスコの新音楽協会の演奏会で初演されました。この2つの小品では、音列を最初に提示するのではなく、音列によって作った和音で謎かけをし、最後にその答えとしての音列を出現させるという遊び心を示しており、十二音技法を縦横無尽に使いこなすシェーンベルクの姿が垣間見えます。

本録音で演奏するのは、アメリカ人ピアノ奏者のポール・ジェイコブス(Paul Jacobs, 1930-1983)です。
ジェイコブスはニューヨークの生まれで、ジュリアード音楽院でアーネスト・ハッチソンに師事し、ロバート・クラフトの知己を得て同時代の作曲家の作品演奏のスペシャリストとして活躍しました。1951年から1960年ごろまでヨーロッパで武者修行をしたジェイコブスは、ピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼンらと親交を結んでいましたが、1960年からニューヨーク・フィルハーモニック専属のピアノ&チェンバロ奏者となり、アメリカに腰を落ち着けて演奏活動を展開しました。同時代のアメリカの作曲家達から信頼の厚いピアノ奏者として八面六臂の活躍を見せたジェイコブスですが、エイズを発症してニューヨークの自宅で亡くなっています。

そんなジェイコブスの演奏は、全く破綻のないテクニックで、これがごくごく日常的にある音楽であるかのように自然に演奏しています。
op.11やop.19のようなロマンティークと無調性の狭間で揺れる音楽は、それぞれの作品の性格を克明に捉え、リズム感よくユーモアすら感じさせる弾きっぷり。op.23やop.25でも、調性音楽的な方向性を見出し、ただ弾き散らかしただけの演奏と一線を画す説得力を持っています。
op.33の2曲も、磨き抜かれた音色で枯山水の庭に佇むような風流を感じさせ、涼やかな余韻を漂わせています。

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