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1928年の日本ハナゲ學会第3分科會において瓢箪屋蓑吉氏が発表した「傳説の白ハナゲと黑ハナゲの脱色化の判別に關する文化論的一考察 ―ルウブル美術館をくまなく回ろうとして挫折したフレデリツク勅使河原氏の手記を中心に―」を再読したり、検証したりするBLOGではないことは確かなことです。ええ!確かなことですとも!
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◈Alexander Glazunov: Symphony No.4 in E flat major, op.48
Leningrad Philharmonic Orchestra / Evgeny Mravinsky
(Rec. 1948)
◈Mikhail Goldstein (attrb. Mykola Ovsianiko-Kulikovsky): Symphony No.21 in G minor, op.48
Leningrad Philharmonic Orchestra / Evgeny Mravinsky
(Rec. 1954)



本CDは、エフゲニー・ムラヴィンスキー(Evgeny Mravinsky, 1903-1988)の指揮するレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(現:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団)による、アレクサンドル・グラズノフ(Alexander Glazunov, 1865-1936)の交響曲第4番とミハイル・ゴルトシテイン(Mikhail Goldstein, 1917-1989)による交響曲を収録しています。

グラズノフは、ドミトリー・ショスタコーヴィチの師匠として知られるロシアの作曲家。ニコライ・リムスキー=コルサコフを師とし、16歳で交響曲を書き上げる程の早熟の人でした。1893年に書かれた第4番の交響曲は、これまでの4楽章構成ではなく、3楽章構成の作品。その後も3楽章構成の交響曲は書いておらず、グラズノフが完成した8曲の交響曲のうち、この曲だけが三楽章構成ということになりました。通常、3楽章構成で交響曲を書く場合は、4楽章構成で中間楽章を形成するスケルツォ楽章を省きますが、グラズノフはスケルツォを第2楽章に据え、緩徐楽章の役割を終楽章の序奏に負わせています。
1894年の1月22日に貴族会館で行われたロシア音楽演奏会での初演では大成功を収め、指揮を執った師のリムスキー=コルサコフも「気品があって表現力も素晴らしい」と絶賛していたとのこと。初演からしばらくは、この作品がグラズノフの最高傑作と見做されました。

ゴルドシテインは旧ソ連のヴァイオリニスト兼作曲家で、ヴァイオリニストとしては、弟のボリスと共にピョートル・ストリャルスキーの門下生として研鑽に励んでいました。弟のほうがヴァイオリニストとして成功したため、ゴルドシテインはモスクワ音楽院でニコライ・ミャスコフスキーらに作曲を学び、作曲家として活動するようになりました。ここに聴く交響曲は、ミコラ・オフシアニコ=クリコフスキー(Mykola Ovsianiko-Kulikovsky, 1768-1846)ことニコライ・オフシアニコ=クリコフスキーの交響曲第21番として1948年に発表された、ゴルドシテインの作品です。
オフシアニコ=クリコフスキーは、ウクライナに実在した大地主で、1810年にはオデッサ歌劇場に農奴たちで結成させたオーケストラを派遣したほどの音楽愛好家でした。ゴルドシテインは、この大地主のエピソードに目をつけ、彼が生涯に21曲の交響曲を書いたことにしました。オデッサ音楽院に勤務していたゴルドシテインは、その21曲目の交響曲を発掘したと偽り、発表の際には「1805年のオデッサ歌劇場のこけら落とし用」という副題を書き添えています。第4楽章には「コサック・ダンス」(Kazachok)というタイトルが与えられています。
作曲家として評価の芳しくなかったゴルドシテインにしてみれば、こうした贋作で評論家筋を騙してほくそ笑むのが目的だったのでしょうが、ゴルドシテインの「発掘」を信じ込んだ評論家たちは、西欧に劣らぬ音楽文化がかつて存在していた証拠としてこの曲を喧伝し、ゴルドシテインは引くに引けなくなってしまいました。また、一部の音楽学者がゴルドシテインの「発掘」を疑いはじめ、その後、作品の鑑定が行われたことで、オフシアニコ=クリコフスキーの作品ではないことが明るみにされ、ゴルドシテインの社会的信用が急落してしまう事態に陥ってしまいました。その後も、ゴルドシテインは贋作を手掛け、1963年にはソ連作曲家同盟主催のコンクールに偽名を使って複数の作品を応募するなどの悪戯を敢行しています。このため1964年には国外に出て西欧諸国を放浪し、ハンブルクで音楽学者として生涯を終えることになりました。
作品は4つの楽章からなりますが、19世紀初頭の交響曲ではありえない表記がわざと盛り込まれています。例えば、第2楽章の「ロマンス」という副題は、18世紀生まれの作曲家の交響曲ではなかなかお目にかかれないもの。第3楽章のミヌエットでもティンパニが何気に多用されていて、様式的に時代考証と合わないところがあります。すぐに偽装と分かる仕掛けを見抜くことなく褒めちぎった評論家たちを、ゴルドシテインは冷ややかな目で見つめていたのかもしれません。

ムラヴィンスキーの指揮するレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、特にグラズノフの作品が共感度の高い演奏です。第1楽章の朴訥としたコーラングレによる序奏を軸にした鄙びた味わいから、一気に絢爛たる本題へと滑りこむコントラストの見事さは特筆されるでしょう。この鄙びた味わいとダイナミックなオーケストラ・コントロールを巧みに使い分け、洗練という言葉では終わらせない複雑さを描き出しています。
ゴルドシテインの作品の演奏は、グラズノフの作品の演奏に比べて、かなり雑な仕上がりです。この雑な印象は、弦楽セクションに音程がズレている個所がある点に起因します。ムラヴィンスキーであればもっとアンサンブルの精度も上げることができたはずですが、細かいパッセージを誤魔化すようなオーケストラの仕草からして、あまりこの作品の演奏に使命感を持っていなかったことが窺えます。そんなわけで、出来の良い演奏ではありませんが、押し並べて楽しく聴けるのは第4楽章でしょうか。所々怪しいパッセージがあるものの、作品のクライマックスにふさわしい賑やかさがあります。

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